[COLUMN] ツイン・ピークス The Return 観察日記(第6話)

 今回のエピソードは最後まで見通すのがほんとうに大変だった……。
 と言っても、けっして苦痛なわけじゃないんだけど。

●ラッキー7・インシュアランスのオフィス前の広場〜ダギーの家

 先週のエンディングからずっと同じ場所……職場の前の広場にある銅像の前でクーパーは佇んでいる。
 左腕の袖口あたりをやたらと引っ張っている。ツイン・ピークスにおいて、左腕への異変は大事なシグナルだ。
 見かねた巡回の警官によって自宅まで彼を送ってくれる。
 ダギー/クーパーを出迎えたナオミ・ワッツ。

 玄関にはどさくさまぎれてダギーと愛人のジェイドのツーショット写真が入った封筒が届いている。
 チクリはダギーの命を狙っている連中ではなく、借金取りの方のしわざらしい。
 で、この写真を目にしたナオミ・ワッツは怒り狂うけれど、ダギーの様子があまりにおかしいことと、借金問題のせいで、なんとなくうやむやになってしまうのだが。

 深夜、社長から押し付けられた”宿題”にダギー/クーパーが取り組んでいると、また片腕の男が現れる。
「目を覚ませ、目を覚ませ。死ぬなよ、死ぬなよ」と言い残して、片腕の男は消える。

 調査資料の束をダギー/クーパーが見つめていると、紙の上に光の粒が浮かび上がる。クーパーはその光に沿って、鉛筆で線を引いたり、梯子や階段のような図形を書き加えていく。
 こっくりさんのような作業を延々と続けているダギー/クーパーを見せられること、約4分。単調すぎてあやうく寝落ちするところだった……。
 オリジナルシリーズに出てくる老ウェイターとか、リンチはキャラクターにこういう冗長な行動を取らせるのが大好き。

●マックス・フォン’s バー

 ゴードンと電話をしながら、ある場所に車で向かっているアルバート。
 外はどしゃ降り、気温は1度。電話口でアルバートを励ますゴードンだが、当の彼は自宅のリヴィングでくつろいでいて、奥さんと最上級のボルドーワインを楽しんでいるらしい。皮肉屋のアルバートでなくても、ぼやきたくなるシチュエーションだ。

 さて、アルバートがやってきたのは〈マックス・フォン’s バー(Max Von’s Bar)〉。
 FBI本部のあるフィラデルフィアのどこかにある店なのだろう。入口のネオンサインが”バン・バン・バー”にそっくりなのも気になる。

 ちなみにこの〈マックス・フォン’s バー〉のネーミングの由来は、リンチのフェイヴァリット・ムーヴィー、ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』に出てくるキャラクター、マックス(写真右)、そしてマックスを演じていた映画監督&俳優のエリッヒ・フォン・シュトロハイムに因んでいる。だから入口のネオンサインも映画監督がよく使うメガホンの形をしているのだ。

 エリッヒ・フォン・シュトロハイムは、D.W.グリフィスの片腕として、『國民の創世』『イントレランス』の制作に参加。
 のちに監督兼俳優となり、戦前から活躍した映画界のレジェンドのひとりだ。ウィキペディアを読んでいるだけで、ものすごく興味を惹かれる人物だが、現在は彼の存在はほとんど忘れられたようになっている。しかし、リンチが彼の名をもじった店を登場させたくらいなので、しっかり学んでおく必要がありそう。

 ほかにもリンチがこの 『サンセット大通り』にちなんでネーミングしたキャラクターが『ツイン・ピークス』には登場する。
 まず、ダブル・R・ダイナーのノーマ・ジェニングス。そして劇場版でクリス・アイザックが演じていた捜査官、デズモンド。これは 『サンセット大通り』の主役であるグロリア・スワンソンの役名「ノーマ・デズモンド」を分解したもの。そして、リンチ自身が演じているゴードン・コールも、『サンセット大通り』の劇中に登場する、パラマウント映画のスタッフの名前をそのまま流用している。

 さて、名前にも想いがたっぷり詰まったバーへアルバートは冷たい雨の中足を向けるのだが、そこに登場した人物もまた、相当な重要人物。
 アルバートが混み合う店内をゆっくり歩みを進めていき、奥のカウンターに佇んでいるひとりの女性を見つけ、呼びかける。

「ダイアン」

 クーパーがテープレコーダーごしに呼びかけ続けていた秘書のダイアン!
 白髪のボブカット、右手には吸いかけのたばこを持った美しい女性。マニキュアは緑と赤に塗り分けられている。

 演じているのは、リンチのミューズであるローラ・ダーン。

 こんなものすごい隠し玉を用意していたからこそ、直前におそろしく退屈なシーンを長々と挟んでいたのか(笑)。

 もちろん新シリーズにローラ・ダーンが起用されていることは知っていたが、まさかあのダイアンとして出すとは思いもしなかった。
 かつてデヴィッド・リンチは自分の作品に二回以上起用した男優は自分の分身で、二回以上起用した女優はミューズだ、と発言していたように記憶しているが、『ブルー・ベルベット』『ワイルド・アット・ハート』、そして『インランド・エンパイア』と、ローラ・ダーンを出演させるときはすべてヒロイン。リンチ作品のなかに、そんな扱いの女優は他に見当たらない。
 しかも、自身の出世作『ブルー・ベルベット』でパートナー役を演じさせたカイルとローラ・ダーンを、クーパーとダイアンとして『ツイン・ピークス』のなかに登場させるなんて、ニクすぎる。

 白髪といえば、オリジナルシリーズでローラの父リーランドが、たった一晩ですっかり白髪になってしまった。ボブの髪も白髪。スチルを見ると、白髪というよりプラチナブロンドに近いが、訳あってこんな髪の色になってしまったのかもしれない。
 今回はこのワンシーンだけの登場で、しかもセリフは「ハロー、アルバート」のひと言だけ。今後の展開が楽しみすぎる。

●ツイン・ピークスのどこかの製材所

 ダイアン登場の興奮も冷めやらぬなか、舞台はまたツイン・ピークスへ。
 第2話でバン・バン・バーにいたバルサザール・ゲティ演じるレッドと、第5話で同じくバン・バン・バーのシーンに出てきたリチャード・ホーンが麻薬の取引をしている。
 このやりとりもさほど重要とは思えないのに、6分半も続く。宙を浮く10セント玉、それがリチャードの口の中から出てきたり、あるいはレッドのトリッキーな動きなど、思わせぶりな要素は多々あれど、苦痛……。

 しかし、さっきのような展開もあるので、ここはグッと堪えねば。
 次のシーンでとびきりびっくりさせられるかもしれないから……。

 とはいえ、このレッドを演じていたバルサザール・ゲティにも、先ほど紹介した『サンセット通り』との関わりがある。

 映画の中で、ノーマ・デズモンドと執事のマックスが暮らしていた瀟洒な邸宅は、ウィリアム・O・ジェンキンスという、1920年代に大成功したビジネスマンが建てた邸宅だった。
 ただ、ジェンキンス一家がそこに住んでいたのはたった一年。あとは10年以上にわたって荒屋同然になっていたという。
 それゆえこの家は、周囲の人から〈亡霊(Phantom)〉という渾名で呼ばれていたのだが、ここを1949年に購入したのが、石油王ジャン・ゲティの元妻だった(ただしゲティは5回結婚してるので何番目の妻かはわからない)。
 結局、1960年に建物は壊されるが、この『サンセット大通り』や、ジェームズ・ディーンの主演作『理由なき反抗』の撮影にも使われた。

 で、バルサザール・ゲティこそ、ジャン・ゲティのひ孫なのだ。バルサザールの父はジョン・ポール・ゲティ三世といい、ジャンの四人目の妻との子、ジョン・ポール・ゲティ・ジュニアの長男。
 ジョン・ポール・ゲティ三世は、父親の仕事の関係で幼少時代からイタリアで暮らしていたのだが、16歳の時に誘拐され、1700万ドルという多額の身代金を要求される。
 しかし、彼はもともとかなりの不良息子で、家族から狂言誘拐の可能性を疑われたうえに、ケチで有名だった祖父ジャンが身代金の肩代わりを拒否。
 その結果どうなったかというと、激昂した犯人グループによって、彼は耳をそがれ、切られた耳を家族に送りつけられてしまう。

 しかし正真正銘の吝嗇家だった祖父ジャンはそんな脅迫にさえひるむことなく、犯人と交渉。290万ドルまで身代金を減額させ、孫を取り返した───と、まるで『ブルー・ベルベット』か、借金取りと交渉して大幅値引きに成功したナオミ・ワッツの元ネタのようなことをしている。
 1980年代前半には、ジョン・ポール・ゲティ三世も俳優として活動していたことがあり、ヴィム・ヴェンダースの『ことの次第』にも出演している。
 また、ジョン・ポールの死因は長年のアルコール&薬物中毒の副作用による病死だった。
 その息子バルサザールにクレイジーなドラックディーラーの役をあてがうなんて、きっとリンチの確信犯的キャスティングに違いない。

●ニュー・ファット・トラウト・トレーラー・パーク

 これまた懐かしい場所が登場した。ハリー・ディーン・スタントン演じるカール・ロッドが管理人をつとめるトレーラーパークだ。
 劇場版で描かれた、ローラ殺人事件の端緒ともなった事件の被害者、テレサ・バンクスがここに暮らしていて、クリス・アイザック演じるチェスター捜査官が彼女のしていた緑の指輪を見つけた、あの場所だと思うが、名前が微妙に変わっている。いずれにせよ、カールもまた25年間働き続けていたんだね……。

 「午前9時までは絶対起こすな」という張り紙、そしてどんな人でも一発で目を覚ます特濃コーヒー「グッドモーニングアメリカ」など、印象深いエピソードも多いカール。劇場版のなかでは短い出番だったが、インパクトは凄かった。

 そんなカールは一日に一度、仲良くしている住人の車で街まで乗せて行ってもらい、ぼんやりと時間を過ごすのが日課のようだ。 

 ちなみに、このシーンに出てくるジェレミー・リントホルムという俳優が、自分の恋人をバットで撲殺しようとして逮捕されるという凶悪事件を起こし、日本でも最近ネットニュースで配信された。
 見出しに驚いて、すぐチェックしたけど、日本では未放映のエピソードに出てくるチョイ役の俳優だったし、どんなふうに受け止めたらいいか、反応がとても難しかった(苦笑)。
 ジェレミーが演じているのはトレーラーハウス住まいのホワイト・トラッシュ=ド底辺の白人男、という役だったので、キャスティング的にはストライクだけどね。

 この新シリーズでも、第1話に出てきた小屋のシーンで、異様なルックスのエキストラたちが数人出てきたが、(多少不謹慎かもしれないけれど)あっち側とこっち側の境にいるような人を目ざとく見つけて、キャスティングするのがほんとうにリンチは上手。
 『イレイザー・ヘッド』以来の盟友ジャック・ナンスもひどいアルコール中毒で、喧嘩で殴打され、それが原因で亡くなっている。『ロスト・ハイウェイ』で白塗り男を演じていたロバート・ブレイクも2001年に妻を射殺した容疑で、逮捕されている。

●ダブル・R・ダイナー

 じつにツイン・ピークスらしいキャラクターが引き続きダブル・R・ダイナーのシーンでも登場。
 店のチェリーパイをこよなく愛しているらしい常連のミリアムと、25年の時を超えて、ぽっちゃりからでっぷりへ進化したウェイトレスのハイジが話しこんでいる。もちろんあの特徴的な笑い声も健在。このふたり、年齢や髪の色は違うけれど、体つきがほんとうにそっくりで親子か姉妹のよう。
 あ、新シリーズになってチェリーパイも初めてこのシーンで登場。とはいえ、ミリアムがすっかり平らげてしまっていて(ふた皿も!)皿の上には影も形も無く、画面には写りません(笑)。

●ツイン・ピークスのどこか

 上物のヤクを手に入れたリチャードがトラックで暴走している。ほんとうに迷惑な男だ。
 レッドとの取引のとき、試しに吸ったクスリの効果で、完全に目が飛んでいる。レッドに金持ちのボンボン扱いされたことについてオカンムリなのだ。図星だったので、よっぽど腹に立ったのだろう。

 いっぽうその頃、ハリー・ディーン・スタントンはダブル・R・ダイナーでテイクアウトしたコーヒーを飲みながら、公園のベンチに腰掛け、葉を生い茂らせた樹々をぼんやりと眺めています。
 仲の良さそうな親子(若い母親と5、6歳の男の子)が楽しげに追いかけっこをしていて、カールの前を無邪気に通り過ぎる。仏頂面の彼の顔に優しい笑みが浮かぶ。

 公園に面した交差点で何台かの車が信号待ちをしているところへ、リチャードの車(真っ黒な旧式のフォードのピックアップトラック)が猛スピードでやってくる。
 焦れた彼は停車中の車の横をすり抜けて、信号無視で交差点へ突っ込む。
 すると運悪く、横断歩道を渡っていたさっきの小さな子どもが、停車中の車の影から顔を出した瞬間、リチャードのトラックに跳ね飛ばされる!

 リチャードはそのまま走り去り、交差点の真ん中には血だらけの男の子が、糸の切れたパペットのように横たわっている。
 母親が断末魔の叫びを上げてわが子に駆け寄り、体を急いで抱きおこすけれど、彼がすでに事切れていることは誰の目にもあきらかだ。

 叫び声を聞きつけ、カールもそこへやってくる。彼の目には男の子の体から魂(黄色い光)が抜け出て、天へ高く登っていくところが見える。
 それを見届けたあと、カールは母親と男の子の骸のもとに歩み寄り、母親の肩に手を置いて、彼女を慰めるように無言でじっと見つめる(この一連のシーン、ほんと最高)。
 
 くしくもこの交差点は劇場版に出てきた。
 手押し車を押しながら、ノロノロと横断歩道を渡る老人のせいで、何台かの車が立ち往生しているところや、カメラアングルなど、このシーン全体がまるで焼き直しのように撮影されている。
 劇場版ではオープンカーに乗ったリーランド&ローラと、キャンピングカーに乗った片腕の男が遭遇した。
 交差点の傍らに立っている古い木製の電柱(6という数字の表示板が嵌めこまれている)が意味深にアップとなり、電線や変圧器から「ジジジジッ」という不吉な音が微かに鳴っている。この電柱と電線はすべてを見てきたのだ、というように。

 逃走していくリチャードと、ダブル・R・ダイナーを出たミリアムの目が一瞬合う。彼女にも悪いことが起こらなければいいんだが……。

●ダンカン・トッドのオフィス

 ラスベガスのどこかにあるモダンなオフィスで、ダンカン・トッドがThink Padでメールを打っている。
 すると、画面に赤い正方形がぼんやりと現れる。
 それがなにかの合図だったのか、彼は背後にある金庫のなかから大きな封筒を丁重に取り出す。封筒の中になにが入っているかはわからない。

●ランチョ・ローサ・エステイト

 ダギーの車が爆発した現場で警察による検証作業が進んでいる。
 目の前に家───ドラッグ中毒の母親と息子が住んでいる、の屋根の上で、ナンバープレートが見つかった。大破した車がダギーの持ち物だということもすぐに判明するだろう。

●どこかのモーテル

 眼光鋭いスキンヘッドの小人がモーテルの部屋にいる。そこへ部屋の外からドアに封筒が差し込まれる。差出人はおそらくダンカン・トッドだろう。
 小人が封筒を開けると、中から出てきたのはA4くらいのサイズの写真2枚。
 1枚には前回出てきたロレーン(ご丁寧にロレーンの写真が映った瞬間、またBluntedbeatzの” I Am (Oldschool HipHop Beat)”が鳴る!)、もう1枚にはダギーの姿が写っていた。
 小人はデスクの上に置いてあったアイスピックを手に持ち、ロレーンとダギーの顔面に力いっぱい突き立てる。

●ラッキー7・インシュランス

 ダギー/クーパーが書類の束を抱えながら、出社してくる。なぜか満面の笑みで。
 今日のダギーはトレードマークであるうぐいす色のスーツではなく、FBI仕様のブラックスーツを着込んでいる。片腕の男の叫びが届いて、FBI捜査官としてのアイデンティティが徐々に目覚めはじめているのだろうか?。

 オフィスに入ると、社長がすぐにダギーを自分の部屋へ呼び込む。
 同僚のアンソニーは落ち着かない様子。彼の不正行為が露見することを恐れているのだろう。

 このアンソニーを演じている役者にも見覚えがあった。『プライベート・ライアン』で、トム・ハンクスが最も信頼を寄せていた兵士ホーヴァスを演じていたトム・サイズモアだ。
 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』『ブラックホークダウン』などの作品にも端役で多数出演している。imdbにカウントされてる出演作は実に204本(笑)。日本で言えば、遠藤憲一とか寺島進とか、使い勝手がよく存在感のある脇役なのだ。

 で、最初、社長はダギー/クーパーの落書きを見て、ただただ呆れている。
 しかし、一枚一枚目を通すうちに、なにか引っかかるものがあり、彼は慎重に書類を見直す。
 そして落書きで示す〈秘密〉に気がついたようだ。
 社長はダギーに感謝して、握手を求める。
 ただ、視聴者であるぼくらにはクーパーが落書きで示した秘密がなんだったのかは、まるでわからない。

 それと、社長室の壁に、あるボクサーのポスターが貼ってある。
 クーパーはそれに見惚れて、思わずファイティングポーズを取る。
 ボクサーの名はBushnell Mullins。調べてみると、これは若き日の社長みたいだ。何かの暗示/伏線かもしれないけど、現時点ではこれも意味がわからない。

●グイネヴィア通りとマーリン通りの角の公園

 ナオミ・ワッツが白昼の公園で借金取りと待ち合わせをしている。
 昨夜、浮気写真の件ですったもんだしているとき(もちろんクーパーはなにも反応しない、ただ一方的に彼女が激怒していただけだ)に、彼らから借金の返済を催促する電話がかかってきた。
 まったく使い物にならないダギーに変わって、彼女が金を受け渡す約束をしたのだ。

 彼らとの交渉の結果、利子込みで5万2000ドルもあった借金(フットボール賭博)を、半値以下の2万5000ドルまで値切ることに成功する。
 この借金をねぎって減額されるというエピソードは、さっき書いたジョン・ポール・ゲティ三世誘拐事件を彷彿とさせる。
 まあ、実際のところは交渉なんて穏便な方法じゃなく、ナオミ・ワッツがあまりにものすごい剣幕でまくし立てるから、借金取りたちがビビって、有無を言う隙が無かったんだけど(笑)。
 

●ロレインのオフィス

 ロレインが誰かと電話していると、壁の向こうから女の悲鳴が聞こえる(BGMはもちろんBluntedbeatz)。
 さっきの小人がアイスピック片手に小走りで彼女の部屋へ駆け込んでくる。
 部屋の隅に追い詰められたロレインは、心臓のあたりに何度も何度もアイスピックを突き立てられる(刺した手を執拗にグリグリする)。
 あっという間に血まみれになって、彼女は絶命する。

 よせばいいのにドアの前に立って、彼女が襲っているところを呆然と見守っている中年の女がいる。返す刀で小人は彼女を襲う。激しい物音と悲鳴が廊下の奥から聞こえ、それが止むと、全身返り血だらけになった小人がふたたび姿をあらわす。右手に持っていたアイスピックは直角に折れ曲がってしまっている。

 この次に小人の殺し屋が狙うのはダギーの命、ということになるのだろう。
 借金問題はいちおう片付いたけれど、ダンカン・トッドがなぜダギーを狙っているのか、そのへんはまだはっきりしていない。
 また、ダギーに目をつけているシルバー・ムスタング・カジノの連中も黙っているとは思えない。

●ツイン・ピークスのどこかの森

 リチャード・ホーンの乗ったトラックがやって来る。
 悪態をつきながら、ペットボトルの水をバンパーやフロント部分にかけ、さっきのひき逃げでついた血をタオルで手早く拭き取る。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 ホークがオフィスのトイレで手を洗っている。紙タオルで手を拭き、小銭入れのようなものをズボンのポケットから取り出そうとした瞬間、一枚の硬貨がこぼれ出て、床に転がる。
 拾い上げてみると、それはネイティブ・アメリカンの横顔が彫られた硬貨(おそらく5セント玉)だった。彼は何かを感じ取り、周囲を見回す。
 すると、トイレの個室のドアに金属製のプレート(メーカー名:NEZ PERCE MANUFACTURING)がついていて、そこにもネイティブ・アメリカンの横顔がロゴマークとして彫り込まれているのだった。
 完全に何かを感じたホークは、ドアにこじ開けられたような隙間があることを発見。バールのようなもので分解しはじめる。

 そのとき用を足そうと、保安官助手のチャド(前回のラスト近く、バン・バン・バーでリチャードと金のやりとりをしていたのもこの男だった)がトイレにやってくる。彼はチャドを追い出して、ドアの中を探し続ける。
 そしてついに手紙のようなものを発見。これがきっと丸太おばさんの予言した〈クーパーを探す手がかり〉にちがいない。

●保安官事務所内の指令室

 フランクが部下に指示を出しているとき、ヒステリックな嫁のドリスがまたも怒鳴り込んで来る。
 チャドは彼らのやりとりを見て、キツい皮肉を口にするが、オペレーターの女性がそれをたしなめる。
 彼女が言うには、フランクの息子は元兵士で、PTSDを発症して自殺。それ以来、ドリスの性格は一変してしまったのだそうだ。
 そんな話を聞いても、チャドは死んだ息子のことも嘲笑する。なんてクズ野郎なんだ……。

●バン・バン・バー

 恒例の歌のゲスト、今回は日本でも人気のシャロン・ヴァン・エッテンが登場。

 シャロン・ヴァン・エッテンは2009年にデビューしたニュージャージー出身のシンガーソングライター。日本にも2010年と2015年の二回来日している。
 曲は2014年発表のアルバム『Are We There』に収録されている「Tarifa」。シンプルで力強いメロディを持つ、スケールの大きなカントリーバラード。
 『ツイン・ピークス』の世界観とよくマッチしているし、今回は特に凄惨なシーンが多かったから、彼女の歌声がほんとうに救いになった。
 


 笑いの基本的概念は緊張の緩和……と言いますが、リンチ作品の魅力は<極度の緊張と極度の緩和>、およびその振り幅の大きさだと思っています。
 怖いけど笑えるし、笑えるけど怖い。ギリギリまで緊張させておいて、緩める。不安にさせて、安心させる───人を笑わせるのと同じやり方でリンチはぼくたちの心をあらゆる方向にざわつかせます。

 赤い部屋の逆回し演出なんかもそうですが、役者たちが実際はこんなふうに演じているかと思えば、本当に滑稽なんだけど、それを反転させると、どこか不安定で緊張感のある映像に変貌する。
 リンチは複雑な映像トリックを好みません。映画がまだ見世物小屋の演し物のひとつだったような時代からある、きわめて単純な手法を好んで使用します。
 映像だけでなく、雑音/効果音といった非音楽的なサウンドも、またリンチの重要な武器です。
 カメラではけっして映し取れない、透明な〈精霊〉の存在を、彼はそういった音をつかって表現します。

 第6話は、新シリーズのエピソードの中でも、屈指の〈緊張と緩和〉の連続でした。観ることに多大なエネルギー消費を強いられ、そのせいか、1時間経つのがあっという間でした。
 番組のラストに出てくるバン・バン・バーのシーンは、毎回エピソード全体の〈緩和〉の場になっているので、演奏が始まると心からホッとするけれど、今回ほど嬉しかったことはなかったなあ(笑)。
 

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