[COLUMN] ツイン・ピークス The Return 観察日記(第5話)

 

 初回から第4話まで一挙放送されたのが7月1日と2日だったので、じつに1ヶ月半以上も待たされたことになりました。
 そのあいだに主演のカイル・マクラクランがプロモーション来日。日本のメディアにも彼のインタビューなどが多数掲載されました(目にした記事はどれもこれも呆れるほどライトな内容でしたが)。
 もちろんアメリカでは粛々とオンエアが続いていて、現地からの最新情報もチラホラと入ってくる。
 知りたい気持ちは山々だけど、新鮮な気持ちで見たいので、こういう余計なものはなるべくならオミットしておきたいもの。

 ただ、この観察日記の執筆作業は続けていたし、地元のラジオ局で持っているレギュラーコーナーのなかで、今回の復活劇について喋ったりもした。あるいは、同じ街で暮らしている同年代のピーカー仲間と今後の展開を想像して、さんざん盛り上がったりできたのも楽しかったな。ぼくのまわりには、放送日に21時からの放送をリアルタイムで見たい……と、直帰するような熱いファンが多いのです。

 第5話が放送された日(8月19日)は、地元のカフェで6時間にわたってDJをして、深夜に帰宅しました。心身ともに疲労でボロボロだったけど、なにはともあれ観なくては……と、着替えもそこそこに鑑賞した次第です。
 さて、じゃあ気分も新たにいってみましょうか。

●ネバダ州ラスベガスの住宅地/どこかのオフィス/どこかの街角

 ダギーの命を狙っていた連中と、彼らに指図を出しているロレインという女が冒頭に登場。
 ほんとうなら昨日のうちに始末できていたはずのダギーが、急に姿を消してしまったので、彼女はとても困惑している様子。
 途方に暮れた彼女は誰かに助力を求めるため、あるいは何かを嘆願するために、携帯電話(ブラックベリー)からどこかへメッセージを発信する。
 どこかの街頭が映り、金属製の皿の上に放置された端末のようなものがある。ディスプレイもボタンも無い金色のハンペンのような形をしている。着信を示すランプがわずかに点滅したが、誰かがそれを手に取るような気配はない。
 ロレインは「ARGENT / 2」というメッセージを携帯で打つ。
 〈ARGENT〉とは英語及びフランス語で「銀」を意味する言葉。銀の元素記号”Ag”の元になっているのも〈ARGENT〉。

 ただ、第4話でアルバートがゴードンに語った台詞の中に「失踪したクーパーが緊急(URGENT)に情報を欲している、とフィリップ・ジェフリーズに頼まれて、それを教えた」というのがあった。
 フィリップが潜伏しているのはアルゼンチン(ARGENTINA)だし、緊急を意味するURGENTとも発音は似ている。
 と言ったところから想像するに、彼女が連絡しているのはフィリップだ、という暗示だろうか。

 他に気になったのは、ロレインが映るとBGMが大音量のヒップホップに切り替わること。

 Bluntedbeatzというハンブルグ在住のヒップホップユニットが制作した” I Am (Oldschool HipHop Beat)”という楽曲。ラファエル・サディークの”Good Man”をサンプリングしたトラック。

●サウスダコタ州バックホーン警察署

 女性鑑識官コンスタンスによって、ルースの首と同時に発見された遺体(胴体部分のみ)の解剖が進められています。男の胸から腹にかけて、大きな裂け目ができている。捜査を担当しているデイヴとドンも立ち会っています。
「わたしの見立てによると、この男の死因は首を切断されたことね」と、コンスタンス。
 しかし、この鑑識ジョークはダダすべり。刑事たちは眉毛ひとつ動かさずに黙っています。
 コンスタンスは死体の胃から指輪を発見していました。指輪にはこんな刻印が。
〈ダギーへ愛を込めて。ジェイニー・E〉
 えっ? この首無し死体はダギーなの? それとも前回、指紋がアメリカ軍のデータベースで見つかったブリッグス少佐のもの?

●サウスダコタ州ブラックヒルの留置所

 鉄格子の中にいる黒クーパー。洗面台の鏡を彼が見つめていると、オリジナルシリーズの最終回に出てきたボブとクーパーのツーショット(狂ったような高笑い/グレート・ノーザン・ホテルの部屋で、クーパーが顔を鏡に映すと中の姿がボブになっていて、クーパーが頭で鏡を叩き割る)がインサートされる。

 何度見ても後味の悪いシーン(笑)。
 そして黒クーパーは呟く。
「まだおれと一緒にいるんだな。それでいい」
 

 彼と共にいるのは、もちろんボブ。よく見ると、鏡の中に映る黒クーパーの顔に一瞬ボブの顔が合成されている!

●どこかの会社

 あるオフィスにて。一瞬写った風景にシボレーの看板が映っていたので、そこかもしれない。
 銀髪の中年男性が書類の山に囲まれている。彼は面接希望の若者をオフィスに招き入れる。
 いかにもボンクラそうな青年スティーヴンが入ってくる。
 しかし、面接官は履歴書を見ただけで激怒し、お前みたいなバカを雇う会社は世界中どこにもない! と怒り心頭。スティーヴンを叱責して、追い返してしまう。
 じつはこの面接官。ボビーの悪友で、ドナと付き合ってたマイク・ネルソンだ。
 見た目もすっかり枯れて、真っ当な大人になったように見えるけど、キミ、若いときは相当悪かったでしょ(笑)。そういう人ほど大人になるとこういうタイプになるよね。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 弟ハリーと電話で話し込んでいるフランク・トルーマン保安官。
 そこへ彼の鬼嫁ドリスが怒鳴り込んできた。
 家の水漏れがどうたら子供の養育がどうたら父親の介護がどうたら……と、ヒステリックに不平不満をぶちまけて、彼女は立ち去る。

 ドリスを演じているのはキャンディ・クラーク。
 映画『地球に落ちてきた男』で、デヴィッド・ボウイ扮する宇宙人を、酒とセックスの力でトリコ仕掛けにするメリイ・ルウを演じていた女優。

 これは以前、ブライアン・イーノがTwitterに上げていた地球に落ちてきた男』のオフショット。
 左がキャンディ、右がボウイ、そして真ん中が監督のニコラス・ローグ。

 また、ジョージ・ルーカスの『アメリカン・グラフィティ』のヒロインのひとり、デビー役も演じていた。
 それが縁で、スター・ウォーズのレイア姫のオーディションも受けたこともあるそうだ。もしも受かってたら、偉大なるフォースの使い手として、自宅の水漏れくらいは業者に頼まずともフォースで直せたかもしれない。
 そういえば、リンチは『イレイザー・ヘッド』を気に入ったルーカスから直々にスター・ウォーズの続編(たしか『ジェダイの復讐』)の監督に指名されたことがある(もちろん固辞した)。
 ルーカスも南カリフォルニア大学時代にはけっこう難解な作品(『THX 1138 4EB』)を撮ってたもんね。

●ダギーの家

 ダギーと置き換わって生活しているクーパーが、妻ジェイニー・Eにせき立てられながら、家を出る。学校に行く息子も一緒なので、会社へ出勤させるつもりなのだろう。
 妻ジェイニー曰く、ダギーがカジノから持ち帰ったキャッシュは42万5000ドル。日本円にして4700万円ほど。
 第4話でクーパーが出したメガジャックポットは29回って言ってたから、一回の当たりが約160万円。思ったより少ないな……。

 そういえば、ちょうど10年くらい前、ラスベガスに仕事で行った折、泊まったホテルの一階がカジノになっていた。一泊約30ドルで三人も泊まれるような安ホテルのカジノだけに、レートも超チープで、たしか5セントくらいから遊べる機械が中心だった。
 もちろん当たりの金額もしれたものなので、一攫千金を狙ってるようなギャンブラーは寄りつかない。近所で暮らしている人生終わりかけた連中───それこそクーパーが当たりの出る機械を教えていたような老婆みたいな人たちが退屈しのぎで一日中過ごせるような場所になっていた(たいていのカジノは客へのサーヴィスでビールやドリンクを無料でふるまってくれる)。
 この後に出てくるシーンで、シルバー・ムスタング・カジノの支配人は、約5,000万円ほどの損害を出したことを責め立てられて、殴る蹴るの暴行を加えられます。時々ニュースになってるけど、こうしたカジノでは大当たりともなれば億単位の金が払い戻されるときもあるわけで、あまりにもかわいそうな仕打ちだなあ(苦笑)。
 ちなみに、カジノを仕切っている兄弟のひとり、ブラッドリー・ミッチャムを演じているのは、あのジョン・ベルーシの弟、ジム・べルーシ。

 話をこのシーンに戻そう。
 ジェイニーはダギーに彼女しか知らないある場所に金を隠したと告げる。
 そして「連中へすぐ連絡して、早く5万ドルを返しちゃいなさい」とダギー(クーパー)に諭す。
 もちろん彼の意識は覚醒していないから、そんなことできるはずもない。
 しつこいようだが……たかだか500万円ほどの金額を回収するために、狙撃しようとしたり、車に爆弾を仕掛けたりするものなんだろううか? さっきのジャックポットの設定金額も含めて、なんとなく腑に落ちないものがある。

 別のシーンになるが、ダギーが浮気現場に放り出したままだったフォードを盗もうとした連中が、ダギーの車のエンジンをかけた瞬間、車は爆発〜炎上する(その際、窃盗団三人が黒コゲに)。

●ラッキー・7・インシュアランス

 サニー・ジムを学校に送り届けたあと、ナオミはダギー/クーパーを会社の前まで車で送ってくる。
 ダギー/クーパーは左手に銃を構えたポーズの銅像が立つ広場を抜け、会社へ。

 彼はどうやら〈ラッキー7・インシュアランス〉という保険会社の調査員らしい。
 会議の席では社長の横に席があるので、それなりに責任あるポストについているみたいだが、派手なウグイス色のスーツで出勤を認められているのも、謎っちゃあ、謎。
 もしかすると、悪党がダギーをしつこく狙っていた理由も、単なる借金ではなく、彼の仕事と関係あるのかもしれない。

 会議で同僚のアンソニーが保険金の支払について報告をしていると、彼の顔の上に緑色の光が灯る。ダギー/クーパーはそれを見て「嘘だ」とひとこと。
 ここまで誰かの台詞をオウム返しにしかできなかったダギー/クーパーが初めて自発的に喋った。
 そのあと社長に呼び出され、2日間の無断欠勤のペナルティもあり、大量の調査資料を渡され、それを精査するように命じられる。その〈宿題〉の成果が芳しくなければ、彼はクビになってしまうかもしれない。大丈夫か?(笑)

●ラスベガスのクルマ修理工場

 ダギーの浮気相手ジェイドの車の中から〈グレート・ノーザン・ホテル 315号室〉の鍵が出てくる。ダギーのポケットから落っこちたにちがいない。鍵についていたタグの裏に「これを見つけた方は郵送してください」というシールが貼ってあり、ジェイドは手近な郵便ポストにポイ。きっとこの鍵の存在も、ツイン・ピークスとラスベガスを繋ぐ”鍵”となるだろう。

●ダブル・R・ダイナー

 これぞ新シリーズの醍醐味! と思わず歓喜の声を上げたくなったのが、アマンダ・サイフリッドの登場。
 しかもダブル・R・ダイナーのミューズ、シェリーの娘役ってんだから、たまらない。

 『ラ・ラ・ランド』や『バードマン』のエマ・ストーンとよく混同してしまうぼくだが、役柄の幅の広さと脱ぎっぷりの良さで、断然アマンダ派。
 大ヒット作『レ・ミゼラブル』で名声を高めた直後、<ディープ・スロート>で有名なハードコアポルノ女優のリンダ・ラブレースの自伝映画『ラブレース』に主演するなんて、ほんとに驚いた。

 さて、アマンダの役名はベッキーと言い、先ほどマイク・ネルソンによって門前払いされたスティーヴンと結婚している(第2話のバン・バン・バーでシェリーがママ友に愚痴ってた)。
 ダブル・R・ダイナーにパンを配達に来てるので、ツイン・ピークスのベーカリーに勤めているのだろう。そういえば、ローラもダブル・R・ダイナーで配達の仕事をしていたっけ。
 さて、スティーヴンは甲斐性なしのヤク中で、ベッキーに始終カネをたかっている。
 で、そのカネでなにを買っているかというと、それはつまりコカインで、ベッキーもまた愛する夫に勧められれば、ついついクスリをキメてしまうのだ。
 やはり、古今東西ベッキーという名前はクズ男を引き寄せてしまうのだろうか?(笑)

 ベッキーが旦那の車(真っ白なサンダーバード)の中でトリップしているシーンで、BGMに流れるのはパリス・シスターズの「I Love How You Love Me」。

 バリー・マンとラリー・コルバーのペンによる普遍の大名曲で、レターメン、ボビー・ヴィントン、クロディーヌ・ロンジェ、日本でもモコ・ビーバー・オリーブ、細野晴臣、そして最近また不倫騒動を起こした斉藤由貴さんも1994年にカヴァーしている。
 タイトルを直訳すると「わたしはあなたがわたしを愛してくれるのが好き」ってところだが、日本でリリースされた時には「わすれたいのに」という、妙にペシミスティックな邦題が付いている。
 でも、歌詞を改めて読んでみても、そんな悲観的な要素はまったくないのだが。

あなたがわたしにキスをするとき、いつも目を閉じるのが好き
わたしと離ればなれになっているとき、淋しがってくれるのが好き
あなたがわたしをやさしくかまってくれるのが好き
でも、なによりも、あなたがわたしを愛してくれてるのが好き

……と、まあ、この歌が流れるだけで、ベッキーがこのゲス男に完全に参っていることをはっきり示唆している。

 シェリーは娘の恋路を心配しつつ、自分の若い頃のことを思えば棚に上げるわけにもいかず、小遣いを無心してくるベッキーについつい渡してしまう。
 そんなシェリーを支えているのがノーマ。
 もちろん演じるのは女優で歌手のペギー・リプトン。今年71歳になるとは思えない美しさだ。
 オリジナルシリーズを見ていた頃、彼女の歌手としてのキャリアのことはよく知らなかったけれど、この25年のあいだにシンガーソングライターとしての素晴らしさにも触れることができた。

 ルー・アドラーがプロデュースした彼女の唯一のアルバム『ペギー・リプトン』(1968年発表)が、数年前に紙ジャケット仕様で日本のレーベルから世界初CD化された。
 その後、シングルオンリーの作品と合わせて『THE COMPLETE ODE RECORDINGS』というコンピレーションCDにまとめられた。
 2013年3月、山下達郎のラジオ番組「サンデーソングブック」のガールシンガー特集で、ペギーの「Let Me Pass By」が紹介され、すぐさまぼくもCDを購入。

 彼女はその後クインシー・ジョーンズと結婚し、二人の娘ラシダとキダダを産む。二人とも女優としてデビューし、ラシダは今も現役だが(『ソーシャル・ネットワーク』の美しい女性弁護士役が印象的)、キダダは今は亡き2パックと交際し、今はジュエリーデザイナーとして著名になっている。
 クインシーとペギーは別居期間を経て、1990年に離婚したようなので、女優としての復帰早々に『ツイン・ピークス』へ出演したということになる。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 ホークとアンディがまだ熱心に過去の資料を調べている───もちろんダブル・R・ダイナーでテイクアウトしたドーナツとコーヒーをお供に。

●ドクター・ジャコビーの小屋

 時計が夜7時を告げると、なにやら独特なセンスで着飾ったジャコビーがスーザの「星条旗よ永遠なれ」をBGMに、ビデオカメラの前でなにかをまくしたて始める。
「自由がいったいどこにあるか、あんたらは知ってるか?」
「生放送でエネルギーを発信しているのはホワイト・テール・ピークの断崖絶壁に立つ、ここスタジオA。ヒンドゥークシュ山脈の頂からだ! わたくしドクター・アンプが自由をVAMP(即興で演奏)し、正義のRAMP(傾斜)を登りきり、解放へのLAMP(あかり)を灯します!」
 大企業や資本家たちのやり口を非難し、環境や食品の汚染を口汚い言葉で罵りまくるのが彼のスタイル。
 どうしたんだ、ドクター? ノリは完全にユーチューバーそのもの。
 しかも、ホワイト・テール・ピークはモンタナ州、ヒンドゥークシュはアフガニスタンだぞ!

 彼のクレイジーな放送に釘付けになっているのはジェリー・ホーン、そして、ネイディーン! 相変わらずのアイパッチ姿だ。
 アジテーションがひと段落すると、ドクター・ジャコビー改めドクター・アンプは録画済みの映像素材に切り替える。
 胴長を着て、泥のなかに埋まった彼が手にしているのは、金色に塗装した例のシャベル(笑)。

 商品名は<Dr. Amp’s Gold Shit-Digging Shovel(ドクター・アンプのクソ掘れ金色シャベル)>。お値段は29.99ドル(送料別)。お申し込みはワシントン州ツイン・ピークス 私書箱479まで。

●バージニア州アーリントン 国防総省

 そしてシーンは国防総省……いわゆるペンタゴンへ。
 デイヴィス大佐が部下のシンシア・ノックス中尉から「ガーランド・ブリックス少佐の指紋がまた見つかった」という興味深い報告を受けている。この25年間で16度目らしい。
 今度のデータはサウスダコタ州バックホーンの警察で見つかった(おそらくコンスタンスが解剖中のアレ)ということで、大佐はシンシアに現地での追加調査を命じる。なにか分かればFBIへ連絡するようだ。

 このデイヴィス少佐を演じているのは、アーニー・ハドソン。名前にピンとこなくても、『ゴースト・バスターズ』(1984年)に途中加入する黒人の隊員といえば、すぐにお分かりだろう。
 相変わらず”亡霊”を追っかけているようだが、立場はずいぶん出世したものだ(笑)。

●バン・バン・バー

 今週のバンドはTrouble。
 3人組のインストゥルメンタル・グループだが、ここまでのエピソードに登場したバンドとは違って、Pitchfolkに掲載されている紹介記事なんかでも、はっきり”番組のために組まれた架空(Fictitious)のバンド”と書いてある。
 メンバーはまずディーン・ハーレイがドラムス。ここ最近、リンチが熱心にリリースしてきた音楽作品を手伝っている音楽家だ。テナーサックスがダーティ・ビーチズというバンドのメンバーでもあるAlex Zhang Hungtai。そしてギターを担当しているのがなんとデヴィッド・リンチの息子ライリー。
 彼は第1回の時に紹介した恋人メアリー・スイーニーとのあいだにもうけた子供で、まだ25歳。なかなかのイケメン。
 演奏している曲「Snake Eyes」は、いかにもリンチ好みのガレージ感覚たっぷりのブルーズで、個人的には90年代の初めごろによく聴いていたGallon Drunkを髣髴とさせる。

 で、先ほど紹介したPitchforkの記事で、ディーン・ハーレイがBandcampでリリースしている『Anthology Resource Vol. 1: △△』というアルバムに行き当たった。

 試聴してもらえればお分かりのとおり、これって新シリーズで効果音や環境音として頻繁に使われている。
 今作のクレジットで、リンチはSound Designer、ディーンはSound Superviserというクレジットで参加しているが、実質このへんの音はディーンの仕事なんだろうか。
 リンチが書いた”指示書”に沿って、ディーンが実際の音を作り出すような関係性とか?

 来月になると、バン・バン・バーで演奏されている楽曲を中心としたサウンドトラック盤と、アンジェロ・バダラメンティが書き下ろしたオリジナル楽曲を中心にしたサウンドトラック盤の二種類が発売になる。
 ときに映像や台詞以上の効果をもたらしているこれらの音にファンとしては魅力を感じているはず。この『Anthology Resource Vol. 1: △△』は絶対に手に入れておくべきアイテムではないだろうか(もちろんぼくも速攻買いました)。

 さて、バン・バン・バーではTroubleが演奏するなか、ボックスシートに座った若者───クレジットを読むと名前はリチャード・ホーン。
 ホーンってくらいなので、グレート・ノーザン・ホテルを経営しているホーン一族のひとりだろう。
 顔立ちがオードリーにどことなく似ているので、彼女の息子か?
 で、そんな彼は喫煙禁止のボックス席でおもいっきり煙草は吸ったり、なにやら悪どいことに使いそうなカネを保安官助手のチャドに渡したり、隣のボックス席にいた女の子に狼藉を働いたり───と、Vシネのような悪行に勤しんでいる。

 リチャードといえば、巨人が第1話冒頭でクーパーに伝えたメッセージのなかに「リチャードとリンダ」ってフレーズがあった。リチャードは彼のことだろうか? リンダはまだ登場人物の中には見当たらない。

●FBI捜査官タミーのオフィス

 タミーが若き日のクーパーの写真や、黒クーパーのマグショット、指紋などを調査している。彼女の表情から察するに、なにか重大な点に気づいた様子だ。

●サウスダコタ州ブラックヒルの留置所

 連邦刑務所のマーフィー所長が、ゴードンから受けた指示に従って、どこかへ私用電話をかけるよう黒クーパーに促す。
 そこで黒クーパーがプッシュホンを高速でピポパポと押しまくると、所内の電気が激しく点滅し、アラームが鳴りまくる。所内は大混乱。
 しかし、受話器を持った黒クーパーが〈牛は月を飛び越えた〉と呪文のようにつぶやき、電話を切るとぴたりと鳴り止む。
 
 黒クーパーは自分のFBI時代のIDを利用し、端末に刑務所のデータをダウンロードしていた(第2話)。それを使ったのだろう。

 〈牛は月を飛び越えた〉というのはマザーグースの歌「ヘイ・ディドル・ディドル」の一節。

Hey diddle diddle,
The cat and the fiddle,
The cow jumped over the moon.
The little dog laughed to see such fun,
And the dish ran away with the spoon.

ヘイ・ディドル・ディドル
猫ちゃんとフィドル
牛は月を飛びこえた
それ見た子犬は笑った
そんでお皿はスプーンと逃げ出した

 〈牛は月を飛び越えた〉というフレーズが〈球形の牛(Spherical cow)〉という有名なジョークの元ネタになっている。
 ジョン・ハートという著名な理論物理学者が学生の頃に聞いたジョークだそうで、こういうものだ───乳の出の悪い牛をたくさん抱えた酪農家が、生産性を上げる方法はないかと、地元の大学に学術的なアドバイスを求めました。すると、理論物理学者をリーダーとするチームが組織され、農場で二週間以上にわたる綿密な現地調査が行いました。そして最終報告書がまとめられて、酪農家の手元に届いたのでページを開くと、1行目に『まず牛を球形に仮定して、それを真空状態に浮かべてください……』と書いてあったとさ。

 計算を容易にするため、考えうるかぎり最もシンプルな形にまで当面の問題を縮小することで、理論上は正しいけれど、完全に現実離れした仮定を導き出してしまうことがある───それを「球形の牛」と呼んで、理論物理学者たちが笑いのタネにしているのだ。
 たしかに本物の牛が月を飛び越えることはできないけれど、球形の牛を宇宙空間に飛ばせば、月くらいは飛び越えるかもしれない。
 現実にはありえないもの───という例えで言えば、ゴードン・コールがしばしば口にする〈ブルー・ローズ〉と同じ意味を持っている。

●アルゼンチン、ブエノスアイレス

 ブエノスアイレスといえば、劇場版でデヴィッド・ボウイが演じたフィリップ・ジェフリーズ捜査官が失踪した場所。
 白昼の空撮映像から、いきなり夜の街頭へと場面が切り替わり、冒頭でロレインが連絡していたハンペン状の端末が映し出される。
 アラームが2回鳴る。すると、パチンコ玉くらいのサイズに一瞬で縮んでしまう。

●ラスベガス、ラッキー7・インシュアランスのオフィス前の広場

 保険会社の入っているビルの広場に、左手でピストルを構える謎の銅像に魅了されているダギー/クーパー。
 日暮れて真っ暗になり、人通りもほとんど無くなったその場所で、社長から手渡された書類の束を抱えたまま、銅像の足元にじっと佇んでいる。そのうら寂しい姿にクレジットが重なる。
 この銅像はデヴィッド・ボウイへのオマージュだ、と海外のサイトでファンが指摘しているのを見た。前述したキャンディ・クラークの説明で触れた映画『地球に落ちてきた男』のなかで、ボウイがそっくりの銃を構えるシーンがあるからだ。

 〈追記〉この点について、めずらしくリンチが明確に否定している。実はこれ、リンチの父であるドナルドとの思い出が元になった像だからだ。2017年10月14&15日に開催されたリンチ主催のイヴェント〈Festival Of Disruption〉で行われたトークイヴェントの中で、この件について質問された彼はこう答えている。
 「わたしの父は19歳の頃に火の見櫓で働いていた。彼は週に一度、5時間かけて水と食料を得るためにそこまで歩かなければならなかった。そしてその塔から煙や火が出ていないかを監視し、何か見たら消防隊員に電話連絡をした。彼は糸を使って、カメラをぶら下げ、このポーズでセルフィーを撮った。そのイメージがわたしの心のなかに残っていて、像を作るときにそのポーズを採用した。見た目は父にまったく似てないけどね」(via Vulture.com


 物語のポイントもだいぶ絞られてきましたね。
 WOWOWの一挙放送がなぜ第4話までだったかという理由もよくわかったエピソードでした。
 というのは、最初の4話分のなかで、大きなものから小さなものまで、さまざまな謎や疑問が次々と提示され、それらはオリジナルシリーズや劇場版からの宿題だけでなく、新たに提示されるものもありました。
 そもそもこの観察日記で、ぼくが物語の展開をできるかぎり丁寧に書き取ってきたのは、あらすじを押さえるというよりも、そうした謎をどういう形でリンチが仄めかし、どう回収していくのか、というプロセスに興味があったからです。

 今回の第5話では、新たな謎の提示がこれまでより抑制され、反面、謎に対する解読のヒントとなるシーン/描写/台詞が数多く詰め込まれていました。
 つまり、オリジナルシリーズと新シリーズを繋いでいたトンネルのような部分はもうすぐ終わりを迎えるのではないでしょうか。ネイディーンやノーマ、ダブル・R・ダイナーといったお馴染みの人や場所、そしてジム・ベルーシやアマンダ・サイフリッドのような新顔が一気に紹介されるようなエピソードになっていたことが、何よりの証拠です。
 クーパーと彼のドッペルゲンガーである黒クーパー(もちろんボブがその中には潜んでいる)との戦いの舞台は、あちら側ではなく、こちら側の世界にほぼ移されたようにも感じました。 

 最後になりましたが、この第5話はマーヴィン・ローザンドという俳優に捧げられています。
 ダブル・R・ダイナーで働いているコック(役名・トード)が彼です。要するに、ツイン・ピークスの住人たちが大好きなチェリーパイを焼いてるのも、彼ということになります。
 この第5話では後姿と横顔がチラッと映るだけですが、2014年に発売されたブルーレイへ収録された、劇場版の未発表映像集『ツイン・ピークス もうひとつのローラ・パーマー最期の7日間(原題:Twin Peaks: The Missing Pieces)』には、もっとはっきりと彼が映っていて、一言だけですが台詞もありました。
 こんな端役でも、ちゃんと前回の作品で使った役者を起用するなんて、リンチはほんと義理堅いというか、細かいというか。
 彼が亡くなったのは2015年9月らしいので、ずいぶん前からこの新作の撮影が進んでいたことがわかりますね。

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