●シルバー・ムスタング・カジノ

 ミスター・ジャックポットこと、クーパーの大当たりはまだまだ続いている。
 25セント硬貨をスロットに入れ、「ハローーー!」と大声を出しながらハンドルを回せば、即座に大当たり。
 メガ・ジャックポットが出ること29回。
 カジノの支配人は完全に顔色を失っている。

 そこにダギーの顔見知りが女連れでカジノにやってくる。アライド・ケミカル社のビル・シェイカーという男。
 様子のおかしいダギーを心配するビルだが、彼もまたクーパーのことをダギーだと完全に勘違いする。
 カジノの近くにあるランスロット・コートというエリアの、赤いドアが目印の家が君の家だから、タクシーに乗って帰れ、とビルが忠告。
 クーパーはビルのアドバイスに従って、タクシーを拾おうと出口に歩きかけるが、カジノのスタッフに呼び止められて、支配人室へ連れて行かれる。ジャックポットの払戻金が入った布袋を手渡されたあと、ランスロット・コートまでカジノが用意したリムジンで送り届けられることになった。

 運転手がダギーの家を探し当てる。リムジンから降りるクーパーだが、ここはダギーの自宅なので、もちろん見覚えなどあるわけがない。
 家の前で立ち尽くしていると、闇の中を一羽の大きなふくろうが鳴きながら飛んでいく。
 すると、血相を変えた彼の妻(ナオミ・ワッツ)が家の中から飛び出てきて、クーパーにビンタ一閃。3日も連絡がなく、会社は無断欠勤、息子のサニージムの誕生パーティまですっぽかしてたというから、嫁が激怒してもしかたないだろう……事実、ダギーはエロい黒人女と浮気してたわけだし。
 しかし、クーパーが抱えていた布袋の中身がとんでもない大金とわかった瞬間、手のひらを返すナオミ。
 「これだけあれば借金が返せる……」
 前回、ダギーが殺し屋に命を奪われそうになっていたのは、きっとこの借金が原因なのだろう。
 ナオミは「今日は人生で一番幸せな日……そして一番恐ろしい日よ」とつぶやく。

●FBI首席補佐官室

 ゴードン・コールが椅子に腰掛けて待っていると、部屋に入ってきたのはFBI首席補佐官のデニス・ブライソン改めデニース・ブライソン。潜入捜査のとき、キッカケでその道に入り、今では女装が正装である。かつての上司であるゴードンをいつの間にか出世で追い抜いてしまったらしい。演じているのはもちろん『Xファイル』のモルダー捜査官ことデヴィッド・ドゥカヴニー。
 彼……いや、彼女に、サウスダコタの刑務所にクーパーが留置されていることや、翌朝、部下とともにそこへ向かうことをゴードンが報告するも、デニースはなにやら嫉妬している様子。
 彼が美人の部下タミーを同行するのがおもしろくないみたいだ。
 そんなデニースに対して「連邦捜査局に君以外の美人がいてもいいだろう」と、ニクい台詞でなだめるゴードン。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 所内のエアコンが不調だと電話で文句を言っているルーシー。
 電話の相手は釣りに出かけているというので、ハリーではない。もうひとりのトルーマン保安官だ。
 玄関に誰か来たから……と、ルーシーが電話を切ろうとした瞬間、そこに現れたのはトルーマン保安官本人。片手にスマホを持っている。
 彼はとっくに事務所の前の駐車場に戻ってきていて、車内から携帯電話でルーシーと話していたのだ。
 だが、彼女は金切り声を上げて、椅子ごと後ろにひっくり返ってしまう!
 「どういうこと? 山で釣りをしてたはずなのに!」
 夫のアンディが移動しながらでも話すことのできる携帯電話のことを、一生懸命説明するのだが、ルーシーはいまだにそれがどういうものなのか、まったく飲み込めていないのだ(笑)。
 25年前のテレビシリーズに存在しなかったもの(もちろん一般的には、という意味で)が、携帯電話、そしてインターネットだ。このふたつの<小道具>が新しいシリーズのなかでどう扱われるのか、楽しみにしていたのだけれど、携帯電話をこんなかたちでギャグに使うとは。

 このトルーマン保安官を演じているのが名優ロバート・フォスター。リンチとは『マルホランド・ドライブ』で一度組んでいるが、なにより印象深いのはタランティーノの『ジャッキー・ブラウン』。保釈保証屋のマックス・チェリーという色気のある中年男の役で、アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた。

 ツイン・ピークスの保安官オフィスもかなりアップデートされ、数台のパソコンが並べられた司令室もできている。とはいえ所内は相変わらずのんびりした雰囲気だが、地元高校生がカナダ国境を越えて運ばれてくる中国産の新型麻薬で死んだりしているらしく、25年という月日の流れも、それなりに感じさせる。

 月日の流れ……という意味では、前シリーズともっとも立ち位置の変わったキャラクターも登場する。
 それがあのボビー・ブリッグス。ツイン・ピークス一の不良高校生だった彼が、なんと保安官として働いているのだ。当時18歳だった彼なので、25年足すと……43歳。見た目もすっかり白髪になり、だいぶ老けている(演じているダナ・アシュブロックの実年齢で言うと50歳)。

 一方、ホークは、いまだ丸太おばさんのメッセージを手がかりに、クーパー捜査官に関する失くなったモノを探しているが、まだ見つけられずにいる。
 会議室の机上に並べられた遺留品の数々のなかに、ローラ・パーマーの写真が置かれていた。ボビーはその写真に目を奪われ、思わず取り乱して嗚咽する(バックには「ローラ・パーマーのテーマ」が流れる)。
 長い時を経て、変わったものもたくさんあるけれど、死者との思い出のように変わらないものもあるのだ。会議室の中にはローラの遺体を前に泣き崩れたアンディをはじめ、ルーシーやホークもいる。彼らもまた解決できない思いを胸に抱えたまま、25年という時間を、この保安官事務所で過ごしてきたのだろう。ここまでの4本の中で、もっとも感動的なシーンだった。
 また、ボビーは失踪前のクーパーと最後に会った人物が自分の父だったことをホークたちに話す。
 

 オフィスにウォリー・ブランドと名乗る人物が現れた。ウォリーの正体はアンディとルーシーの愛息。つまり第1話でアンディが話していたマーロン・ブランドと同じ誕生日の息子のことだ。
 ウォリーはマーロン・ブランドの出世作『乱暴者』(あばれもの)風の衣装を身にまとい(革ジャンの胸のところにはごていねいに「Wally」の刺繍入り)、ヴィンテージのカフェレーサーにまたがってやってきた。東はバージニア、西はカリフォルニアと旅をしてきたという彼が、ツイン・ピークスに帰ってきた目的はトルーマン保安官にメッセージを伝えること。
 「お会いできて嬉しいです、保安官。あなたの弟のハリーは俺の名付け親です。病気だと聞き、彼の回復を祈るために戻ってきたんだ」
 二人の”トルーマン保安官”の関係を、われわれ視聴者にきっちりと台詞で説明してくれたウォリーは、『JUNO』でエレン・ペイジの恋人役を演じたり、『スコット・ピルグリム VS 邪悪な元カレ軍団』の主役を務めたマイケル・セラ。
 マーロン・ブランドには似ても似つかない、おたくっぽい雰囲気の彼がこの役をやっているのがとてもおもしろい。
 

●ダギーの家/赤い部屋

 パジャマ姿でベッドに腰掛けているクーパー。かたわらにはダギーのあざやかなウグイス色の背広が置いてある。
 部屋の隅にクーパーが目をやると、赤い部屋が出現。片腕の男が立っている。 
 片腕の男は当惑していた。ブラックロッジに戻されるはずだった黒クーパーではなく、ダギーがここに送り込まれたからだ。
 クーパーと黒クーパーが一緒に現世にいることはできないので、このままではどちらかが死ぬことになると、彼はクーパーに告げて、彼の姿は消える。
 しかしクーパーはまだ元のように明晰な思考も行動力も取り戻せていない。洋服の着方も、食事の方法も、小便の仕方さえ忘れてしまっている始末だ。
 黒クーパーを出し抜き、彼をブラックロッジに送り返すことなど、このままの状態ではとてもじゃないが難しいだろう。

 ただ、一人息子のサニージムとは言葉をかわさずとも心を通わせることができるようだ。親指を立てる挨拶(サムアップ)も思い出すことができた。このシーン、地味に感動。

 しかし、まともにできるようになったのはそれくらいで、酔っ払ったサラリーマンのようにネクタイも頭に巻いている。
 ナオミが運んできてくれたコーヒーには反応を示すのだが、熱さと苦さに驚いて、口にした瞬間、吐き出してしまう!
 よく見るとこのシーン。クーパーの背後にふくろうの置物があるのは見逃せない。

 あと、食卓のシーンのあいだ、デイヴ・ブルーベック・カルテットの名曲『テイク・ファイヴ』が延々BGMで流れている。
 タイトルの通り、5拍子が特徴で日本では栄養ドリンクのCMソングとして耳馴染みのひとが多いだろう。アメリカでは1961年にビルボードチャート25位とスマッシュヒットを記録している。
 余談だが、ぼくが最も好きなアルト・サックス奏者が、この曲の作曲者であり、カルテットのメンバーでもあるポール・デスモントだ。どんな曲を吹いても飄々として、まったく力みがない。
 なかなか寝付けない夜は、彼のアルバム『First Place Again』を睡眠導入剤として長年愛聴している。
 彼は1972年には「テイク・ファイヴ」のアンサーソング、「テイク・テン」を自ら作った。

 「オードリーのダンス」や「ダンス・オブ・ドリームマン」など、アンジェロ・バダラメンティが『ツイン・ピークス』のために書いたスコアにも、ジャズを取り入れた楽曲があるけれど、この「テイク・テン」なんかは、そういった曲の下敷きになっているような雰囲気があると思う。

●サウスダコタ州バックホーン警察署

 鑑識官コンスタンスはルースの首と一緒に見つかった胴体の身元を探していた。指紋照合の結果、行き着いた先はアメリカ軍の極秘データベース。アクセスには軍の許可が必要で、それ以上調べることができないことがわかる。

●サウスダコタ州ヤンクトン連邦刑務所

 到着したゴードン一行。用意されていた黒塗りの大型車で留置所へ向かうというなんでもないシーンで、またもショートコントが炸裂。
 車中、アルバートがゴードンに「タミーが車酔い(カー・シック)をしているようです」と伝えると、耳の悪いゴードンは「おいおい、ここはサウスダコタだぞ。”コサック”はロシアだ」と大ボケ回答。いらついたアルバートが「カー・シックです!!」と大声で叫んだので、運転手はびっくりして、慌てて急ブレーキ。見かねたゴードンがアルバートをたしなめるように「今日の君は機嫌が悪いようだな」とひとこと呟いて、オチ。このノリも『やすらぎの郷』に近い(苦笑)。

 そんなこんなで、車は連邦刑務所に到着。黒クーパーの事故の原因を吐瀉物から毒性のものが検出されたことなどから、食中毒と判断しているようだ。
 また、大破した車のトランクからはコカイン、マシンガン、それと小さな白い犬の足(!)が発見されている。
 これを見てアルバートが───おい、チーズとクラッカーは見つかってないのか? と毒づくが、これはチーズとマルチーズ、コカイン(クラック)とクラッカーをかけたジョークってことなのか。

 ゴードン一行は黒クーパーと対面し、予定通り尋問を開始する。
 ガラス越しにゴードンの顔を見た黒クーパー。ニッコリと笑顔を浮かべながら、サムアップ。それを見て静かに頷くゴードン。
 「古い友達に会えて、モッテトうれしいよ」と黒クーパー。喋りにブラックロッジ訛りが混じっている。
 ゴードンに今まで何をしていたかと質問されると、「同僚のフィリップ・ジェフリーズ(劇場版でデヴィッド・ボウイが演じた捜査官)と一緒に潜入捜査をしていた。この顛末を話したいと思って、あなたのところへ車で向かっていたが、途中で事故ってしまった」と黒クーパーは語る。また
 「わたしはメッセージを残した。フィリップに安全だとわかってもらうためのメッセージだ」と話を続ける彼。
 しかし意味がまったくわからないゴードンやアルバートたちは、当惑の表情を浮かべるのみだ。
 黒クーパーはもちろん留置所から早く出たがるが、コカインなどを所持していた以上、裁判という手続きを踏まねばならない。とりあえずゴードンは最善を尽くすと約束する。不気味な笑顔を浮かべ、ふたたびサムアップする黒クーパー。

 面会を終えると、ゴードンは刑務所のマーフィー所長に指示する。
 黒クーパーが電話をするように仕向け、その通話内容を傍受するように、と。
 ゴードンがクーパーに対し、疑いの目を向けている証拠だ。

 ゴードン一行は空港に到着し、帰りの飛行機を待っているとき、アルバートがある告白をする。
 アルバートはかつてフィリップから電話で相談を受けた。
 彼が言うには、失踪したクーパーがある情報を欲している、というのだ。
 情報とはある男の居場所。
 クーパーを心配したアルバートは、男がコロンビアにいるという情報をフィリップに教え、その男は翌週殺された。

 つまり、アルバートから得た情報で、クーパーはその男をコロンビアで殺害した。
 だが、その男が誰なのかはまだ明らかにされていない。

 上司である自分に、そんな大事な話を黙っていたことに対し、怒りを示してもよさそうなもんだが、ゴードンはさりげなく話を元に戻す。
 「今日会ったクーパーだが……わたしはどうも気に入らないんだ。なにかがおかしい。事故のせいだとも思えない。彼の話し方はまともじゃなかった」
 「わたしも彼の話をまったく理解できませんでした。まさに”ブルー・ローズ”です」とアルバートは答える。
 前回も説明したが、ブルー・ローズは『ツイン・ピークス』の世界において、不自然なものを象徴する。
 彼らの混乱を強調するかのように、この空港のシーンは最初から最後まで画面は真っ青だ。

 「われわれが捜査に取り掛かる前、ある人物にクーパーと会ってもらおうと思うんだが」とゴードン。
 「それがいい。”彼女”はきっと酒場にいる」とアルバートが答える。
 彼女??? 誰だ???

●バンバン・バー

  今週の歌のゲストはAu Revoir Simone(オー・ルヴォワール・シモーヌ)。
 ブルックリン出身のシンセ女子三人組。初めて自分が実際に見たことのあるバンドが出てきてうれしい。

 2005年に彼女たちのアルバム『Verses of comfort,assurance & salvation』が金沢のレーベルRalleyから発売され、その後、初来日公演を行った。それを東京で見た。会場はたしか渋谷のO-nest。演奏の印象はほとんど記憶に無いのだが、バンバン・バーとまではいかないけれど、かぶりつきくらいの距離でモデルのように美しい女性たちが、シンセサイザーを巧みに操る姿がとてもセクシーだったことだけは、鮮烈に覚えている。
 デヴィッド・リンチも早くから彼女たちに注目し、2007年、カルティエ財団のサポートで、大規模な個展”The Air is on Fire”をパリで開催したとき、再現した『イレイザー・ヘッド』のセットを再現した部屋で、彼女たちに演奏させたほど入れ込んでいる。
 今回、演奏したのは「LARK」という楽曲。2007年のアルバム『Bird Of Music』に収録されている。


 今回は言葉で説明しづらいシーンがとても少ないのが特徴。
 ナオミ・ワッツやマイケル・セラのような新顔のハリウッドスターや、ボビーが意外な形で再登場したほか、ルーシーの卒倒、ゴードンの難聴ネタなど、コミカルな演出も多かった。
 次回以降のポイントとしては、ゴードンがクーパーに会わせたいと話していた”彼女”がいったい誰なのか。
 そして、ルースの首と一緒に見つかった胴体が軍の関係者のものだった、ということ。
 ただ『ツイン・ピークス』に出てきた軍人……おまけに肥満体の男性というヒントで思い出すのはたった一人なのだが。これもいずれ身元が判明するだろう。