結論から書きますが───賛否両論あると思いますけど、個人的には見事な大団円だったと思っています。
 リンチとフロストはひとつの輪……いや無限に続く輪(∞)を示してくれました。
 結局、The Returnの第1話を見れば、そのあとの十数話に対してやれ伏線だ、ネタバレだ、と気にしていた自分がバカみたいです。
 なぜなら第1話のファーストシーンに、そのすべてが詰まっていたのですから───。

●赤い部屋

 ルーシーに背後から撃たれたあと、ウッドマンたちの救命の甲斐もなく、フレディの渾身のパンチに散った黒クーパーが椅子に腰掛け、黒煙を吹き上げながら燃えている。頭だけ燃えるパターンや、ダギーのように徐々に萎むパターンなど、消え方にはいろいろあるようだ。

 次に片腕の男マイクが、クーパーから託された髪の毛と〈種〉を指先でクニクニしながら「電気〜〜〜(Electricsit—-y)」とつぶやくと、ダギー復活。髪型、顔つき、服装、性格の、いずれもクーパー寄りだ。グリーンのジャケットを着ていたダサいダギーではない。
 ただ、復活早々「ぼくはどこにいるんだい?」なんて言ってるから、以前の記憶は引き継がれてないみたい。

●ダギーの家

 玄関チャイムが鳴って、ナオミ・ワッツが赤いドアを開ける。そこに立っていたのはダギー。
 ナオミ・ワッツと息子のサニージムに抱きつかれたダギーがひとこと「家(Home)」。

 ここで注意したいのはナオミの声と服装。心底愛した旦那が消えていたわりに、ナオミ・ワッツは呼び鈴に反応した声が妙に明るいのだ。
 またピンクのカーディガンに白のシャツ、タイト目のジーンズは、第4話でジャックポットの大当たりを出し、深夜にカジノから帰宅したダギーを出迎えた時と同じなのだ。
 マイクが送り返したのは、その日の昼間───ジェイドと別れた直後の時間帯なのではないだろうか。だから、家を開けていたのは浮気相手とのアバンチュールの時間だけ。つまり、ミッチャム兄弟ともキャンディーズとも、大金とも高級車ともジャングルジムともフィンガーサンドウィッチとも関わりのない世界ということ。つまり借金も帳消しになってない可能性もあるので、今後のダギーが心配だが、クーパーの能力が備わっているなら大丈夫なのかも。

●1989年2月23日のツイン・ピークスの森(グラストンベリー・グローヴ)

 前回のリプレイ。レオ・ジョンソンたちのもとへ向かっていたローラを救出し、家に連れ帰ろうとしていたクーパーだが、途中で邪魔が入り(セーラの仕業か?)、ローラは絶叫を残して姿を消す。とまどいの表情を浮かべるクーパー。

●赤い部屋

 突然シーンが変わり、クーパーは赤い部屋で片腕の男と対峙している。
 「これは未来か? それとも過去か?」 マイクは問う。
 第2話に出てきたシーンの再現だ。答えられないクーパー。クーパーの胸にはFBIの記章。
 クーパーの前から姿を消したかと思うと、部屋の隅で手招きしているマイク。
 彼に誘導され、ジャガイモ頭のシカモアの木=〈腕〉のもとへ行く。
 〈腕〉はクーパーに問う。
 「Is it the story of the little girl who lived down the lane?(それは通りのそばに住んでいた少女の物語なのか?)」
 クーパーは答えない。

 ふたたび赤い部屋の椅子。ローラがクーパーに何か秘密を耳打ちする。驚きの声を上げるクーパー。
 そしてまた絶叫して斜めに飛びあがり、消えてしまうローラ。

 クーパーは次の部屋へ。リーランドが座っている。
 「Find Laura…(ローラを捜せ)」

 通路を歩きながら右手を上げて動かすと、一枚のカーテンがはためく。そこに入っていくクーパー。
 以前ここを通ってた時はどうしていいかわからず、マゴマゴしているところをシカモアの木に見つかり、「非!存!在!(non-exist-ent!)」とドヤしつけられ、流浪の旅に出る羽目になった。
 それに比べて、このクーパーはずいぶん馴れた様子に見える。

 カーテンの奥。たくさんのシカモアの木と、地面に〈輪〉のある場所に出る。
 そこにはダイアンが立っていた。赤い髪に白黒のマニキュア、襟の大きく開いた黒のカットソー? を着ている。まるで〈赤い部屋〉の化身だ。

 「あなたなの? 本当にあなた?」 とダイアンが尋ねる。
 「そうだよ、わたしだ、ダイアン」 クーパーが微笑を浮かべて答える。
 ダイアンもクーパーの頬に触れ、笑顔を浮かべるが、動きは逆回転だ。
 「君はダイアンか?」
 「ええ、そうよ」

 こういう推測ができる。
 ダイアンが〈輪〉へ迎えに行くとき、現れるのは必ずしもクーパーでは無い。あるいは、クーパーがこっちへ戻った時、〈輪〉に現れるのはダイアンではない時がある。
 しかしそれを見た目では区別できず、確かめないとわからないのかもしれない。
 ここで思い出すのが───ホテルの部屋でゴードンたちにダイアンが告白した内容、すなわち〈最後にクーパーと会ったとき、レイプされた〉と言っていたこと。結果的にはレイプされたダイアンもトゥルパだったわけだが───そのときは正しいクーパーと正しいダイアンが出会っていなかったということ。
 要するに、二人が出会い、別れるという行動は何度も何度も繰り返されている、ということではないだろうか。

●どこかの道

 荒涼とした土地の真ん中をまっすぐ伸びた一本道を走るクーパーとダイアン。乗っているのはやけに古ぼけた車だ(よく見るとダイアンが着ているのはカットソーではなく、袖口に凝った切り返しのついた半袖のサマーニットだった)。

 二人が走っている道は以前、第2話第3話で黒クーパーが失踪していたサウスダコタの道と様子がそっくり。
 やがて無数の巨大な鉄塔が立ち並んでいるエリアにさしかかる。

 「ほんとにやる気なのね」 ダイアンは少し心配そうな顔。
 「そのせいでどうなるのか……」
 「覚悟してるよ。もうじきに着くぞ。感じるんだ」

 車があるポイントの近くに近づく。
 「走行距離はほぼ430マイル(692km)」

 クーパーはきっかり430マイルの地点で車を停める。
 ダイアンは「よく考えて……」と彼を止めようとしているが、振り切るようにクーパーは車外へ。
 
 頭上の太い電線がビリビリと鳴っている。
 腕時計をチェックし、大きく深呼吸するクーパー。めずらしく髪の毛が乱れている。
 
 車に戻り、ダイアンにクーパーは「ここがその場所だ」と告げる。
 「キスをしてくれ。ここを越えたらすべてが変わってしまう」
 唇を離すと、ダイアンが言う。
 「行きましょう」
 彼女も覚悟を決めたようだ。
 
 ゆっくりと車を前進させると、電線の音は次第に太く大きくなる。
 やがて車内に閃光が走ると、一気に夜の真っ暗な道へと場面が変わる。

●どこかのモーテル

 古ぼけた平屋のモーテルの敷地にふたりの乗ったクラシックなセダンが入ってくる。
 パーキングに車を停めると、クーパーがひとりで車を降り、チェックインするために受付へ向かう。
 ダイアンは助手席に坐って受付のほうを眺めていると、正面の柱の陰からもうひとりのダイアンが姿を現し、見つめ合う。
 クーパーが受付から出てくると、もう一人のダイアンは消える。
 二人は7号室に入室する。

 ダイアンが電気をつけると、クーパーは「明かりを消せ」と指示。
 「で、次はどうするの?」
 「こっちへ来い(Come over to me)」

 雰囲気や態度がなんとなく黒クーパー的になっている。
 抱き寄せてダイアンにキスをするクーパー。
 そして彼らは交わる。
 ダギー/クーパーがナオミ・ワッツと交わった時と同じ騎乗位で。
 騎乗位は〈馬〉の暗示かもしれない。
 馬はフクロウと並んで、ツイン・ピークスの世界で何度もシンボリックに登場する動物である。

 ここで音楽がかかる。ザ・プラターズの「My Prayer」だ。
 第8話で、リンカーン似のウッドマンがラジオ局KPJKに「火、あるか?(Gotta Light?)」とつぶやきながら押し入り、DJや受付の女性を血祭りに上げたとき、流れていたあの曲。
 しかし、よく聞くと「My Prayer」と重なるように、シンセサイザーの低い不穏なストリングス音が流れる。

 下になったクーパーはまったくの無表情。ダイアンは腰を動かしながら、彼に何度もキスをするが表情は変わらない。そしてダイアンはクーパーの顔を手のひらで覆うように動かす。まるでウッドマンが黒クーパーの顔に血を塗りたくっているようだ。
 ダイアンはもはやクーパーの顔を見ない。天井を見つめて、今にも泣き出しそうな表情だ。こちら側の世界に超えてきてしまったのは、まちがいだった───と言わんばかりに。

 朝───。
 眠っていたクーパーが目覚めると、そこにダイアンの姿はない。
 ベッドサイドに一枚のメモが残されている。
 〈親愛なるリチャード。わたしは出ていきます。どうか捜さないでください。もうあなたのことがわからないの。わたしたちが分かちあったものは終わってしまった。リンダより〉

 第1話で消防士が「忘れるなよ」と念を押しながら授けた〈430/リチャードとリンダ/2羽の鳥とひとつの石〉のうち、〈430〉と〈リチャードとリンダ〉のキーワードがここで示された。
 さっきのシーンでクーパーが言っていた430マイルのポイントを越えた瞬間から〈すべてが変わり〉、クーパーはリチャードに、ダイアンはリンダになってしまったのだ。
 昨夜、モーテルの柱のところでもうひとりのダイアンが咎めるように見ていたけれど、ダイアンはダイアンでいられくなったとき、それ以上クーパーの側にとどまれないのかもしれない。

 部屋の中の様子は一夜明けても変わりがあるように見えなかったが、モーテルの外観は昨日とまったく異なっている。二階建てになって、新しくはないが現代的なモーテルだ。
 駐車場に停めてあった車もフォードのクラウンビクトリアに変わっている。

 クーパーは車を駐車場から出し、どこかに出発する。

●オデッサ

 〈Odessa / CITY LIMIT / POP 95,940〉という道路標識。なに州のオデッサか、というヒントはまったく無し(テキサスにもフロリダにもミズーリにもアメリカには無数のオデッサがある)。
 町の中を走るクーパーは一軒のダイナーに目を留める。
 その名は〈JUDY’S COFFEE SHOP〉。

 先客は猛禽類のような顔をした老夫婦とカウボーイハットの三人組。
 あとはブロンドの若いウェイトレスがひとりと、コックが厨房にいる。ダブル・Rよりもずいぶん広々とした店だ。
 クーパーは店内が見渡せる入口横のボックス席に座る。
 ウェイトレスがコーヒーサーバーとメニューを持ってクーパーのところへやってくる。

 「この店に君以外のウェイトレスがいるかな?」
 ウェイトレスは怪訝そうな顔つきで「いるわ」と答える。
 「でも今日はお休みなの。休んでもう3日になるけど」

 ウェイトレスのは名札にはクリスティ(Kristi)とある。演じているのはクリント・イーストウッドとフランセス・フィッシャーの愛娘フランセスカ・イーストウッドだ。彼女がリンチ好みの美人だということもあるだろうが、このキャスティングも絶対狙っているはずだ。

 さて、クーパーのところから、カウボーイたちの席にコーヒーのおかわりを注ぎに行った彼女。男たちにスカートを引っ張られてからかわれている。
 「彼女を離せ」 クーパーがたしなめる。
 男たちは立ち上がってクーパーのところへ近づき、銃を突きつけながら「表へ出ろ」と脅す。
 クーパーは男が銃を持っていた右手をテーブルに叩きつけ、股間に前蹴り。慌てて銃を引き抜いた別の男のつま先を、懐から取り出した自分の銃で撃ちぬく。
 呆然と立っていたもう一人の男に命令して銃を床に置かせ、すこし離れた場所に座らせる。
 
 クーパーは周囲を警戒しながら、クリスティのいるカウンターに近づき、休んでいるウェイトレスの住所をメモするように命令する。
 彼女が紙に書いているあいだに、ポテトを揚げていたフライヤーのなかへ男たちから取り上げた銃を放り込む。
 そして厨房のコックに「弾が爆発するかはわからないが、とりあえずそこから離れていなさい」と命令する。
 拳銃を揚げるなら弾倉を抜いたあとでよかったんじゃないかな(笑)。

 クリスティがメモを心配そうな顔でクーパーに渡すと、「心配ない、わたしはFBIの人間だ(=I am with the FBI)」と言いのこし、クーパーは立ち去る。

●オデッサのどこか

 クリスティからもらった住所をもとに、もう一人のウェイトレスの家を見つけるクーパー。

 ドアの上の住所表示は〈1516〉。家の前の電柱に〈324810〉〈6〉という見覚えのある表示板がついている。
 左は今回の、右はリチャードが子どもを轢き殺した交差点にあった電柱のもの。完全一致。

 電線から唸るような音が聞こえてくる。

 家に近づいていくクーパー。庭はゴミが散乱し、荒れ放題。
 ドアをノックすると中からローラ・パーマーそっくりの中年女性が姿を現す。ブロンドの髪を肩までに切り、ホースシュー(馬の蹄)のペンダントをしている。
 クーパーがFBIの者だ、と名乗ると、ローラ似の女は「彼が見つかったの?」と逆質問。

 クーパー「ローラかい?」
 ローラ似の女「家を間違ってるわ」

 彼女の名前はローラではなく、キャリー・ペイジというらしい。

 クーパーはローラという名に聞き覚えがないか、と食い下がるも、キャリーは首を横に振る。
 しかし、クーパーが「父親の名はリーランド、母親の名はセーラ」と話し続けると、キャリーの表情にあきらかな動揺の色が。

 キャリー「セーラって……いったいどういうことなの?」
 クーパー「説明するのはとても難しいことなんだ。奇妙に聞こえるかもしれないが、君はローラ・パーマーという名前の少女だったとわたしは思っている。わたしは君を母親のもと───つまり君の自宅だったところに連れて行きたいんだ。とても大事なことなんだ」
 キャリー「ねえ、聞いて。普通だったらあたしはあんたみたいな人間が来たら『消え失せろ』と言ってドアを閉めちゃうのよ。でも……あたしはここを今すぐ出て行かなくちゃいけない。話せば長い事情があるの。FBIと一緒にいるなら、あたしは助かるかもしれない。で、どこへ行くの?」
 クーパー「ワシントンだ」
 キャリー「D.C.?」
 クーパー「いや、ワシントン州にあるツイン・ピークスという町へ」
 キャリー「遠いの?」
 クーパー「ああ、かなりね」
 キャリー「支度するから中に入って」

 クーパーが中に入る。殺風景なリヴィングルームのカウチに頭を撃ち抜かれた男の死体がある。壁に血しぶきがこびりつき、蝿がたかっている。キャリーが3日勤めに出ていないので、おそらく死んだのはその直前だろう。
 殺したのはキャリーの今のパートナーで、どこかへ逃げている。もしくは、殺された男がパートナーなのかもしれない。
 いずれにせよ、クーパーが現れたとき、彼女が聞いたのは殺した男の行方について、何か彼が知っていると思ったからだ。

 炉棚の上に白い馬のオブジェと青い皿が立てかけられている。
 そして暖炉の前のラグの上にライフルが落ちている。これが凶器だろう。

 電話のベルが鳴る(JUDY’Sからクリスティがかけているのかも)。

 キャリーはそれに気に留めることなく、クーパーに質問する。

 キャリー「ワシントン州って北の方よね。コートは必要かしら?」
 クーパー「あるなら持っていくべきだよ」
 キャリー「食べものは何もないけどどうする?」
 クーパー「途中で買うからかまわない」
 キャリー「オッケー、じゃあ行きましょう」

 ドアを締めながら、忌々しそうに男の死体を一度睨みつけるキャリー。
 おそらく彼女はウェイトレスをしながら、ある意味、おだやかな生活を営んでいた。そこに(男を殺し、逃亡した)

 車中、キャリーは「あなたは本当にFBIエージェントなの?」と質問。クーパーがバッジを見せると、彼女は安堵し、呟く。
 「これでクソ忌々しいオデッサとおさらばできるわ」

 ふたりの乗ったフォードが夜道をひた走る(ちなみに、このあたりで番組開始から40分が経過。残りは20分弱。最終回だということをリンチが忘れてるんじゃないかと心細くなる)。
 リアガラス越しに後ろの車のライトが見える。まるで夜の森でフクロウが目を光らせているようだ。
 キャリーとクーパーは警戒して何度も振り返る。
 なんのへんてつもない場面がサウンドや演出の力で不気味なシーンに変貌する。リンチ演出の真骨頂だ。

 やがて後ろの車は道を逸れて、どこかへ消えていく。

 安堵したキャリーは身の上話をはじめる。

 「オデッサ……あたしは家もきれいにして、きちんとした生活をしようとしてたのよ。ほんとうに長い道のり……あたしはまだ若くてなにもわかってなかったわ」

 キャリーは穏やかで平穏な暮らしを望んでいたのだが(白馬がその象徴)、いつもそれは踏みにじられ、挙句の果てに一人の男が彼女の家で死んだ。彼女はなんの未練もなく、オデッサを棄て、クーパーとツイン・ピークスへ行くことを決めたのだ。

●深夜のガソリンスタンド

 ウッドマンたちが蠢いていた店でもなく、エドが経営している店でもなく、アメリカ中どこにでも見かける現代的なガソリンスタンドのチェーン店〈VALERO〉。給油と休憩を終えたクーパーとキャリーは車にふたたび乗り込んで、ツイン・ピークスへ向かう。
 実在する店が登場するのはツイン・ピークスのなかでは非常にめずらしいことだ。

●ツイン・ピークス

 鉄橋を渡り、ついにツイン・ピークスへ到着する。〈ダブル・R〉というダイナーの前を通りかかるが、店の外観が旧シリーズのときのものに戻っている。
 クーパーはまわりの風景に見覚えがないか、キャリーにたずねるが、彼女は首を横に振る。

 そして、ローラの家の前に到着。

 クーパー「この家に見覚えは?」
 キャリー「無いわ」

 彼らは車を降り、クーパーは森のなかを歩いた時のように、彼女の手を握って、家に近づいていく。
 歩みを進めていくにつれ、キャリーの顔つきが徐々に変化し、かつてのローラ・パーマーの雰囲気を漂わせる(ように、ぼくには見える)。

 クーパーがドアをノックする。応答がない。もう一度ノックすると、金髪の中年女性がドアを開ける。

 女性「なんでしょうか」
 クーパー「(驚いた表情で)FBIの……デイル・クーパー特別捜査官といいます。セーラ・パーマーはご在宅ですか?」
 女性「誰です?」
 クーパー「セーラ・パーマーです」
 女性「そんな名前の人はここに住んでいませんが」
 クーパー「では、セーラ・パーマーはごぞんじじゃないでしょうか?」
 女性「いいえ」
 クーパー「この住宅はあなたの持ち家ですか? それともお借りになっていますか?」
 女性「わたしたちの持ち家ですよ」
 クーパー「どなたからお買いになりましたか?」
 女性「(リヴィングの方を見て)ねえ、あなた。ここを売ってくれたご夫人の名前を覚えてる? (振り返って)ミセス・チャルフォントよ」
 クーパー「そのご夫人が誰から買ったかはわかりますか?」
 女性「いいえ。(ふたたびリヴィングにいる夫に)ねえ、チャルフォント夫人が誰からこの家を買ったかは知ってる? (クーパーを見て)わからないわ」
 クーパー「あなたのお名前は?」
 女性「アリス……アリス・トレモンドよ」
 クーパー「わかりました。夜分遅くに失礼しました」
 アリス「いいのよ」
 クーパー「おやすみなさい」
 アリス「おやすみなさい」

 アリスがドアが閉めると、クーパーとキャリーは前庭の階段を降りていく。
 そして振り返り、もう一度、ローラ・パーマーの家であったはずの住宅を見つめる。
 
 無力感に襲われたクーパーが呟く───いったい今は何年なんだ?(What year is this?)

 キャリーはクーパーを見つめたあと、もう一度、家の方を見る。
 すると中から、セーラ・パーマーの声が聞こえる。
 「ローラ!」

 序章の冒頭で、朝になってもローラの姿が見えず、セーラが二階を探しまわってる時の呼び声だ。

 絶叫するローラ/キャリー。
 クーパーは驚いて彼女を見る。ローラの家の灯りがすべて落ち、閃光が走る。そしてあたりは完全な闇に。
 闇の中をローラの叫び声が聞こえる───その残響がいつまでも響いている。

●赤い部屋

 クーパーの耳元で秘密を囁いているローラの姿が闇の中にうっすらと浮かび上がる。
 そしてその上にクレジットがゆっくりと流れていく。 

 Sheryl Lee as Laura Palmer
 Sheryl Lee as Carrie Page

 決して〈Sheryl Lee as Laura Palmer / Carrie Page〉ではない。

 クレジットのあと、〈LYNCH / FROST PRODUCTION〉のロゴ、および番組を製作した〈SHOWTIME〉が流れる際、それぞれについている音(前者は電気がスパークする音、後者はファンファーレ的な音楽)は省略され、残響音が小さく聞こえる。


 
 というわけで、25年ぶりの新作が完結した。
 オードリーはどうなった? とか、全裸で見つかったジェリー・ホーンは? とか、そんな些細なことを気にしている場合ではない。
 なにせこの最終回は新作の第1話から第17話まで、あるいは旧シリーズの序章から29話までと同様の展開を、たったの60分で描き切ってみせたのだから。

 シリーズを見通した上で、ぼくの思うところはこの〈観察日記〉を来年ZINE化する予定なので、そこで詳しく書こうと思う。
 
 そのうえで最後に少しだけ余談を───。
 新しい家主として登場するアリス・トレモンドを演じたマリー・レーバーはプロの女優ではなく、現在パーマー家としてロケで使用されている住宅を所有している、本物のオーナーらしい。

 もうひとつ、このトレモンドという女性について。
 そして彼女がクーパーに教えたミセス・チャルフォントという女性についてのおさらい。

 旧シリーズでは、ミセス・トレモンドという寝たきりの老婆のところに、ローラがボランティアで食事を運んでいた。ローラの死後、ドナが代わりに彼女のところへ食事を運んだときに、不思議な体験をする。
 また、ミセス・チャルフォントはジャンピングマン、ウッドマン、ボブや小人などがたむろしているコンビニの二階にいるメンバーのひとり。
 現世ではカールが管理していたトレーラーハウスに孫のピエールと一緒に住んでいた。
 テレサ・バンクスが持っていたフクロウの指輪を、このチャルフォントが住むトレーラーで見つけたデズモンド捜査官は姿を消してしまう。
 このミセス・チャルフォントと、ミセス・トレモンドは同一人物だとされている。

 しかし、これもまた〈6〉の電柱と同じことだ。
 悪の象徴としてローラたちの前に度々出現する存在───というだけで、深く考察したところでなんの意味もない。

 さて、もう一度書こう。
 ツイン・ピークスに謎など、なにもなかった。
 すべては繰り返される輪の上の出来事で、どこが始まりでどこが終わりでもない。
 過去が未来に、未来が過去に影響を与え、クーパーはローラを……いや、リチャードはキャリーを助けるために、ぐるぐると廻り続ける。
 シーズン4があろうと、シーズン100まで続こうと、もはやぼくは気にしないだろう(もちろん見るけど)。

 あなたがもしこの〈TWIN PEAKS THE RETURN〉で答えを見つけられなかったのなら、クーパーのように何度でも赤い部屋のカーテンをめくり、はじめからやり直せ(RETURN)ばいい。