●ビッグ・エドのガソリンスタンド

 やけに晴れ晴れとした顔つきで、昼下がりの大通りを歩いてくるネイディーン。
 肩にはジャコビーの金色シャベルを担いで。

 エドのスタンドにやってきた彼女は夫に対して、突如こう宣言する。
「あなたを変わらず愛しているけれど、あなたが昔からノーマと相思相愛なのも知っていた。わがままでクソビッチだったわたしはあなたたちに嫉妬し、引き離した。でも今日から変わったの。このシャベルの力でクソから抜け出るのよ。もうあなたには自由になってほしい。愛する人をほんとうに幸せにするのが本当の愛。だから彼女と一緒に余生を過ごして」

 どうやらジャコビーの番組に影響されて、彼女は真の愛に目覚めたらしい。
 そしてエドをハグし、またシャベルを担いで、ネイディーンは歩いて去っていった。
 にわかには信じられない表情のエド。

●ダブルR・ダイナー

 さっそくノーマのもとに駆けつけたエド。ノーマに朗報を伝えたいのに、なぜか彼女はツレない態度だ。
 それもそのはず、彼の背後からビジネス・パートナーで、彼女と怪しい雰囲気だったウォルターが現れた。
 ウォルターと腕を組んで、いつものボックス席に座るノーマ。

 落ち込んだエドはシェリーにコーヒーを注文し、ひとりごとで「あと青酸カリも……」とつぶやく。
 時すでに遅しだったのか。

 店内には大音量でオーティス・レディングの「I’ve Been Loving You Too Long」のライヴバージョンが流れている。

 やめろと言われても、もうおそいねや
 でもあんたはもうええかげんつかれてもうて、どっかにいきたいころやろね
 こっちは愛情がなんぼでもふえるもんやさかい、あんたのことをかんがえるんが習慣になってしもたんや
 ああ、ほんまえらいながいこと愛してしもたもんやねえ
 せやからさ、やめたないねん

 あんたがおってくれるだけで、わしの人生はほんまエエもんになるとおもうねん
 せやからやめるわけにはいかしまへん
 せやけどさ、あんたはもうええかげんつかれてもうて、コッチコチのカッチカチになってるんやろね
 わしのほうは、つきあいが深くなるにつれて、思いがめちゃめちゃすごいことになってんねん
 ああ、もうほんまにえらいながいことすきになってしもたもんや
 せやからさ、たのむからさ、やめてとか、いわんといて

 ほんまにながなってしもたもんやで、ほんまかなわんね
 やめろとかいわんといてくれへんかなあ
 いまやめるわけにはいかへんねん
 土下座でもなんでもしますよってに
 やめさせんといてよ、ごしょうやさかい

 愛しとんねん、まじほんまやねん
 もうぜったいとまらへんねん
 たのむでたのむでたのむでしかし
 いっぺんはらわってはなさへん?
 わしがおまえのことをすきやってこと

 
 なんとなくオーティスの歌声を聞いていたら、関西弁で訳したくなってしまった(笑)。
 
 まあ、歌詞を読めば一目瞭然で、エドとノーマの長すぎた愛のドラマを象徴するような選曲になっている。

 さて、今回ウォルターを呼び出したのはノーマのようだ。
 ウォルターは自分が提案したフランチャイズの件を承諾してくれるもの、と早合点。
 しかし、ノーマは自分の経営する7店舗のうち、本店以外のフランチャイズ権を彼に買って欲しい、と言う。

 理由を問われるとひとこと「家族よ」。
 ウォルターは「君には家族なんていないじゃないか?」と言うが、ノーマは「いいえ、わたしには素晴らしい家族がいる。そのお世話がしたいの」と答える。

 諦めたような顔つきで目を閉じるエド。てっきり彼はウォルターに店を経営してもらい、ノーマが妻となって彼を支える……という予想をしたのだろう。

 しかし、ウォルターとはほんとうにビジネス上の付き合いだったようで、彼はなかば立腹して帰ってしまう。

 エドの背中を優しく撫でるノーマの長い指。エドの顔にゆっくりと笑みが広がっていく。
 「結婚してくれ」
 ノーマにエドがそう告げると、彼女は熱いキス。
 見守っていたシェリーも本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる。
 二人の幸せを歓迎するかのように、めずらしく晴れ渡ったツイン・ピークスの空が映る。

 エドが店に来る前にネイディーンはノーマにも会いに来て、同じ話を彼女にもしたのかもしれない。
 そこで、ノーマは急遽ウォルターを呼び出し、さっきの話を持ちだしたのでは。

 こんなにうまくいっていいの? と言いたくなるような長すぎる春の成就。
 クーパーのもたらすハッピーパワーがついにツイン・ピークスまで到達し、ネイディーンに心変わりを促したのかな。
 ネイディーンがエドを思う気持ちも十分理解出来るから、祝福ばかりもしていられないような気もする。
 実際ぼくはエドとノーマのカップルより、ネイディーンとの夫婦関係のほうが好きだったし、彼らが同じ夫婦役で主演したウェス・クレイヴンの映画『壁の中に誰かがいる』もずいぶん面白かった記憶がある。

 まあ、あと残り3話なので、前シリーズのようなどんでん返し(ネイディーンの精神が女子高生に戻って……というブッ飛んだ展開になったとき、エドとは一度別れた)は無いよね、さすがに。

●どこかの夜道

 打って変わって画面はモノクロに。電気の音がビリビリ。
 車が夜の道をヘッドライトを頼りに走っている。もちろん運転しているのは黒クーパー。

 そして到着したのが第8話に登場したコンビニエンスストア。ウッドマンたちが徘徊していたあの店である。
 車を降り、先導役のウッドマンと外階段を黒クーパーが屋上へ上がっていくと、途中で二人の姿は消える。

 黒クーパーが小さな部屋に入ると、別のウッドマン(劇場版に出てくる〈ジュディのコンビニ〉の二階に似たような人がいた)が腰掛けている。

 「フィリップ・ジェフリーズはどこだ?」
 ウッドマンが横に置いてある古い変電装置のようなものを操作すると、こちらも劇場版の〈ジュディのコンビニ〉にいた、赤いスーツでトンガリ鼻の男”Jumping Man”の顔がフラッシュバックする。

 このシーンをコマ送りでよく見ると……トンガリ鼻の顔面にセイラとリーランドの顔が一瞬見える!
 ここから深読みすれば、ほんとうの悪玉は母親のセイラで、リーランドにボブを憑依させてローラを殺めたとも取れるが……。

 また、このシーンは映像だけでなく、スピードを落とすと台詞も聞こえる。
 ネイティヴの人たちの聞き取りによれば〈Back away a little bit, Michael. Yeah, back away. Back- back, keep goin’ back. There, perfect. Perfect.〉だということ。
 
 フィリップを探して、さらに奥へ進む黒クーパー。
 さらに階段があり、そこを上ってから突き当りのドアを開けると、そこにモーテルのような建物。
 彼はその建物に歩み寄り、8号室のドアを開けようとする。
 しかし、ロックされている。
 するとどこからともなく一人の女”Bosomy woman”(”Bosomy”とは豊満な胸、という意味。髪の毛を50年代風にセットしたネグリジェ姿で、体格が妙に男っぽい。クレジットを見ると、Malachy Sreenanというやや中性的な男優が演じている)が現れて、ブラックロッジ風の逆回転喋りで「鍵を開けますよ」と言って、ロックを外してくれる。
 なんだか出来の悪いロールプレイングゲームみたい。

 8号室の中にはフィリップ・ジェフリーズがいる。
 しかし、死んだデヴィッド・ボウイが復活したわけではなく、Naido、Didoや消防士たちのいた部屋にあった、ボイラー型の機械の姿に変わっている。
 フィリップはぽかぽかと湯気を上げながら黒クーパーを待ち受けていた。
 小人が木になり、デヴィッド・ボウイがボイラーに変わるのがツイン・ピークスの世界である。

 で、黒クーパーがフィリップに質問する。
 C「レイをけしかけて、俺を殺そうとしただろう」
 P「なんのこと?」
 C「5日前に俺に電話したのはお前か?」(第2話からたった5日間しか経過してないのか……)
 P「君の電話番号を知らない」(LINEの既読スルーの言い訳みたい)
 C「他の誰かがかけたのか?」
 P「俺たち、昔はよく電話で話したもんだよな」(支離滅裂)

ここで劇場版のボウイ登場シーンがインサートされる。

 C「あのとき君が言ってた〈ジュディ〉って誰なんだ? 〈ジュディ〉は俺になんか用事があるのか?」
 P「それはお前が直接聞け。俺が書いてやる……485514」 律儀にメモを取る黒クーパー。
 C「で、〈ジュディ〉って誰なんだよ」(しつこい)
 P「もうお前は会ってるよ」
 C「会ってる……?」

  ここで、部屋の中にあったダイヤル式の電話が鳴る。

 「ジュディって誰だよ?(Who is Judy?)」としつこくフィリップに問いただしていた黒クーパーだが、呼び出しベルのうるささにたまりかねて受話器を取ると、コンビニエンスストアの一階に置いてあった電話ボックスへ強制的に転送されてしまう。
 結局、知りたかった情報はほぼ手に入らなかった黒クーパー。まちがった操作のせいでスタート地点に戻されたRPGの主人公みたい(笑)。

 するとそこにリチャード・ホーンが銃を片手に現れる。あのアジトから跡をつけてきたのだろうか。
 「お前、FBIのクーパーだな。母さんが持ってた写真で見たぞ」
 「母さんって誰だ?」 さっきから会話が質問だけの黒クーパー、
 「オードリー・ホーンだ」とフィリップと違ってはぐらかさずに答えるリチャード。

 何かを悟ったような顔つきで地面に黒クーパーがつばを吐くと、なぜかそれを目で追ってしまうリチャード。その隙におもいっきり張り飛ばされ、蹴飛ばされる。
 黒クーパーはリチャードを車に載せ、どこかへ出発しようとするが、その前にメール。

 〈ラスベガスは?〉(←12話でダイアンに届いた文面と同じ)

 彼らの乗ったトラックが立ち去るとまた大きな音とともに電気が流れ、コンビニは消滅。

●ツイン・ピークスのどこかの森

 かわいらしいボストンテリアを連れた中年男性(このドラマの共同制作者で脚本担当のマーク・フロスト!)が森のなかを歩いていると、様子のおかしいアベックと出会う。
 ベッキーの夫スティーヴンと愛人のガーステン・ヘイワード。ふたりともシャツやパーカーは赤系だ。

 話の流れによれば、スティーヴンはどうも女を射殺したらしい。
 ガーステンは必死で彼をなだめているが、興奮した彼は聞く耳を持たない。おそらくクスリでぶっとんでいる(そういえばジェリー・ホーンはどうなったんだろう?)。

 ガーステン曰く「先にやったのは彼女」ということなので、ひょっとして被害者は……ベッキー?
 「俺を見ろよ……俺は高卒……高卒なんだよ!」とおかしなことを言い始めるスティーヴン。高卒で世の中に出て立派に働いている人はたくさんいるよ。ぼくなんて大卒だが、こんな感じだ。

 で、そうこうしてるうちにマーク・フロストがやってきて、スティーヴンの銃を見て、驚いて逃げ出す。
 つられて思わず駆け出すガーステン。スティーヴンがいる場所のちょうど裏辺りにしゃがみこむ。
 
 森のなかを一発の銃声がこだまする。頭を抱えるガーステン。
 エピソード冒頭で一組のカップルが結ばれた一方、どうしようもないクズ夫婦は終わりを告げた。

●ニュー・ファット・トラウト・トレーラーパーク

 逃げ出してきたマーク・フロスト(シリル・ポンズという役名らしい)が管理人のカールに森での出来事を報告している。

●バン・バン・バー

 いつもよりだいぶ早いタイミングでロードハウスが登場。
 いつもの黒人司会者が次にDJがかける曲「Sharp Dressed Man」をアナウンスしている(ワイアレスマイクのお尻の部分に松ぼっくりがついている。前からあったっけ?)。

 ZZトップはテキサス出身のスリーピースバンドで、ぼくが生まれた1969年に結成以来、48年間いちどもメンバーチェンジをしていないというのは、稀有。
 フロントマンふたりがまったく同じファッション、ヒゲ、サングラス姿で、ぼくたちのように80年代の音楽にどっぷり浸かって育った世代なら『Eliminator』や『Afterburner』あたりの楽曲は、アルバムやシングルを買わなくとも「ベストヒットUSA」やMTVなどでさんざん聞きまくった……いや、見まくった。

 残念ながら本人たちは登場せず、なぜか音だけ。
 ロードハウスの雰囲気にはぴったりだし、出演したら話題になっただろうなあ。

 で、ノリノリになっているフロアの人混みをかき分け、仕事終わりのジェームズとフレディがやってくる。
 お目当てのレネーは、夫のチャック、別のママ友夫婦(旦那は揃いもそろってジャイアン系)と飲んでいる。
 にもかかわらず、空気をまったく読めないジェームズが、よせばいいのにレネーに声をかける。
 腹を立てたチャックはジェームズにパンチ一発。床に組み伏せてもう一発。で、パパ友もおまけのキック。

 見かねたフレディが消防士から授かったゴム手袋で軽くパンチすると(漫画みたいな〈ボカーーン!〉というSE付き)、男たちは一瞬で昏倒。特にレネーの旦那は瞳孔拡散、痙攣、白目をむき、泡まで吹いている。
 黒クーパーに殴られたギャングのリーダーよりかはマシだけど、どう見ても死んじゃいそう(あとで集中治療室送りになったことがわかる)。
 ジェームズはのんきに「助かったよ〜、ありがとう、フレディ」なんて声をかけている始末。
 こういうところがダメなんだよなあ、ジェームズ……。

●FBIラスベガス支部

 間抜けな局員が上司に「ダグラス・ジョーンズ一家を連れてまいりました!」と報告。
 別室を見に行くと、9人家族の違うジョーンズ家が連行されていた……というショートコント。

●ダンカン・トッドのオフィス

 アンソニーから連絡が来ないことに焦りをつのらせているダンカンとロジャー。
 もはやアンソニーはダギー側に寝返ったし、保険金も無事にミッチャム兄弟の手元に渡っているので、もはや彼らの人生は詰んでいる。
 そこにキャリアウーマン風のスーツで変装したシャンタルが乗り込んできて、あっけなく射殺。
 結局、ダンカンは自分のデスクから一歩も動かなかったな……。

 去り際のシャンタルの台詞によれば「あと、ひとり殺る」とのこと。
 狙いは当然ダギー/クーパーのことだろう。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 ボビーとホークによって、留置所に連行されてきたジェームズとフレディ。パイロット版のラストシーンではふたりとも檻の中だったのに、この立場の逆転感はすごい。
 ジェームズが入れられた牢は7番、フレディは8番。さっきフィリップがいたのも〈8号室〉だったけど、何か関係あるのかな。
 そして留置所はあいかわらずカオス状態だ。酔っぱらいは相変わらずオウム返しだし、Naidoは鳴き続けているし、チャドは完全にブチ切れている。

 ホークによれば、フレディが殴った相手はふたりとも集中治療室に入っている模様。
 あんなチンピラごときをノスために消防士はあんな力を授けたわけではないだろう。フレディが収監された状態で黒クーパーに鉄槌を下すチャンスが、今後あるのかもしれない。

●ハッチの車のなか

 ひと仕事を終えたシャンタルがハッチとハンバーガーを食べている。
 派手な殺しのあとで、こうやって安っぽい食事しながら、政府がどうした、火星がどうしたと、事件とまったく関係のないおしゃべりをするのはタランティーノの専売特許。何度も書くがティム・ロスはもちろん、シャンタル役のジェニファー・ジェイソン・リーもQT組。『パルプ・フィクション』のファミレスのシーンや、トラボルタとわれらがサミュエルL・ジャクソンのとめどない会話を思い出してしまう。

●ダギーの自宅

  ナオミ・ワッツが用意したチョコレートケーキをむさぼり食べているダギー/クーパー。次々と幸せなことが起こるので、ナオミは夢見心地。

 ダギー/クーパーがテーブルの上にあったリモコンをなにげなく触ると、テレビが点く。
 画面に映るのは映画『サンセット大通り』。
 この作品のことは、第6話のときにさんざん書いたので端折るが、ここではあるシーンがダギー/クーパーの目に偶然留まる。グロリア・スワンソン演じる落ちぶれた大女優ノーマ・デズモンド(ダブルRダイナーのノーマと劇場版に出てきたデズモンド捜査官の命名の由来になった)が、撮影所にセシル・B・デミルを訪ねるシーンだ。
 そのなかでセシルはこう呟く。「ゴードン・コールに連絡しろ(Get Gordon Cole)」

 ゴードンの名前を耳にした瞬間、ボンヤリしていたダギー/クーパーの目にさっきとは違った光が宿る。
 クーパーの視線はテレビから、背面の壁にあったソケットに移動。這い寄って近づく。
 そして手に持っていたフォークをおもわずコンセントに差し込む。
 感電し、昏倒するクーパー!
 ナオミは大絶叫し、家は停電。二階にいた息子も驚いて声を上げる。
 ついにクーパーが覚醒か?!

●丸太おばさんの家/ツイン・ピークス保安官事務所

  丸太おばさんことマーガレット・ランターマンからホークに電話がかかる。
 取り次いだルーシーは「○○さんからお電話です、ピカピカと点灯しているボタンを押すと〜」といういつもの台詞は言わない。
 
 マーガレットはいきなりショッキングなことを言う。
 「ホーク、わたし死ぬわ」
 
 ホークは特に慰めるでもなく、黙ってそれを受け入れ、「残念だよ、マーガレット」と返事をする。

  「あなたも死のことは知っているでしょ。終わりではなく、変化するだけ。ホーク、その時が来たのよ。手放してしまうのはちょっとだけ怖い。わたしがこれまであなたに言ったことを思い出して。もうこれ以上、電話であなたに伝えることは出来ない」
 「意味はわかるわよね。あなたと直接語り合ったことよ。〈あれ〉に注意して。ブルーパイン山の月の下にかかる〈あれ〉のことよ。ホーク……わたしの丸太は黄金に変わる。風が咽ぶ。わたしは死ぬ……おやすみなさい、ホーク」

 ホークは答える。「おやすみ、マーガレット。(電話を切って)さよなら、マーガレット」
 
 ツイン・ピークスのキャラクターとして……というよりも、このシーンの撮影後、まもなく癌でこの世を去ったキャサリン・コールソンからのメッセージのようで、胸揺さぶられた。

 死は終わることではなく変わること───実はこの放送前日、ぼくは癌で闘病中だったある親類の死を看取り、通夜を終え、翌日に葬儀を控えた状態で、このエピソードを見た。それゆえこのシーンの哀切感はいつもの自分の受け止め方とまったく違った重みがあったように思う。

 マーガレットがずっと抱え続けていたのは、結婚式当日に焼死した消防士だった夫サムソンの身代わりとして、現場から切り出してきたベイマツ───すなわちダグラス・ファーだ。
 ダグラスといえば、クーパーがなりかわっているダギーのファーストネームでもある。

 彼女がこの世を去り、ダグラス=丸太(マーガレットにとって価値あるもの)が黄金(より多くの人にとって価値あるもの)に変化する。

 で、マーガレットが警告した「ブルーパイン山の月の下にかかる〈あれ〉」というのはつまりこれのことでしょうね。


 

●ツイン・ピークス保安官事務所の会議室

 ひとりパソコン仕事をしているフランク・トルーマン保安官。そこにボビー、アンディ、ルーシーが入ってくる。ホークに招集をかけられたらしい。
 ホークが別のドアから入ってきて、皆に語りかける。
 「今夜、マーガレット・ランターマンがこの世を去った」
 さめざめとなくルーシーの肩をアンディが優しく抱く。
 目を閉じ、頭を垂れるホーク。
 夜の森のなかで静かに佇むマーガレットの家が映し出される。

●オードリー・ホーンの家

 ロードハウスに行く行かないでまだチャックと揉めているオードリー。
 ここまで来ると、オードリーは行かないのではなく、何らかの理由で行けないのではないだろうか。
 たとえばオードリーはまだ昏睡から目覚めてなくて、このやりとりもすべて彼女の意識化の出来事だとか……。

●バン・バン・バー

  今夜のライブゲストはThe Veils。昨年発売のシングルからの曲で「Axolotl」。
 Axolotlとはメキシコサラマンダー……いわゆる、ウーパールーパーのことである。
 
 さて、ロードハウスのボックス席に、アジア系のメガネ女子がひとりで座っている。
 クレジットによると名前はルビー。
 そこへバイカールックの輩が二人やってきて、俺たちにその席をあけろと言わんばかりに、隣に立つ。

 彼女は「ここで友だちを待っている」と言って抵抗を試みるが、男たちに脇を抱えられ、強制排除されてしまう。

 しばらく床にへたり込んでいたルビーは、そのまま四つん這いでフロアに進んでいく。
 そして絶叫。暗転───。
 このルビーの動きは、クーパーが床をハイハイで進み、コンセントにフォークを刺し、感電するシーンとシンクロしているような気もするが……。

 そして黒クーパーがフィリップと出会ったモーテル風の建物の外観に場面が変わり、エンドクレジットはそれをバックに流れる。
 


 これまでの15話の中だけでなく、シリーズのなかでもとりわけエモーショナルなエピソード。
 ツイン・ピークスにかぎらず、物語を展開し、登場人物を整理していくために〈死〉というものがしばしば利用される。
 たとえば今回ならダンカン・トッドやロジャー、スティーヴンのように、役割を終えた悪党たちが次々と始末された。

 いっぽうで、ドラマの中で丸太おばさん=マーガレット・ランターマンに訪れた死は、役者であり、リンチの長年の親友であるキャサリン・コールマンの死であることを、われわれ視聴者の相当数が知っている。
 アメリカの視聴者を調査した結果、このドラマを見ている人のほとんどは前シリーズから追いかけ続けている四十代から五十代の人たちだったし、世界各国の視聴者も同じような傾向だろう。
 またそうしたトリヴィアは若い視聴者にとっても、SNSなどをとおして共有されている。

 ぼくが感心したのは、マーガレットの最後の登場シーン=死を、シリーズが最高の佳境を迎える直前である、この15話に盛り込んできたことだった。
 実際、丸太おばさんが示唆するヒントというのはしごく曖昧だし、正直このタイミングでなくてもかまわなかったはず。だが、最終回に近づくにつれ、会議室でゆっくりと彼女の冥福を祈るようなシーンは挿入しづらいだろう。
 そのあたりに、リンチやフロストたちの彼女への深い愛と敬意を感じてしまうし、ぼくたちファンも、ある意味でドラマの結末以上に、そういう部分を見たいと思っているからだ。
 そしてキャストクレジットのラストに第1回では〈In Memory of Catherine Coulson〉、今回は〈In Memory of Margaret Lanterman〉と出る。
 役者名とキャラクター名の両方に捧げられた人というのを、ぼくは他のドラマや映画でも見たことがない。