●サウスダコタ、メイフェア・ホテル

 第12話に続いて、メイフェア・ホテルからスタート。
 ゴードンが電話をかけている。相手はなんと……ルーシー。

 ゴードン「ルーシー! きみはずっと(25年間)そこにいたんだな」
 ルーシー「いいえ、ゴードン。うちにも帰ってますし、休暇を取ってアンディーとボラボラ島にも行きましたよ」
 ゴードン「……………」 ←ここの間が最高。

 このツカミだけでグッと来てしまう。

 ゴードンはトルーマン保安官が留守電を残していたので、コールバックしたのだ。
 ルーシーが保安官に電話をつなぐ。が、ゴードンは電話の相手をハリー・トルーマンだと思っている。もちろん出たのは入院中の彼に代わって捜査の指揮を取っている兄のフランクだ。

 フランクはホークが発見したローラの日記の件で、ゴードンに伝えたいことがあった。
 それは彼女の日記にあった〈クーパーが二人(=TWO COOPERS)〉いる可能性について、だ。

 ゴードンは捜査の都合上、それが役に立ったかどうかをフランクに明かすことはできない。しかし、感謝の気持ちとハリーへの伝言をフランクに伝える。

 それにしても、ゴードンの耳が遠いネタと、ルーシーの電話の取り次ぎ方のクセが強いネタは徹頭徹尾、省略しないことに決めているのだな(笑)。

 同ホテルの別室───。
 物々しい通信機器やパソコン、サーバなどが並んでいる。
 アルバートがダイアンのメールのやりとりなどもモニターしていたのはここだろう。
 
アルバートがタミーに〈ブルー・ローズ事件〉について話を聞かせている。

●1975年、若い捜査官二人が、ワシントン州のオリンピアで発生した殺人事件を捜査していた。
●彼らはロイス・ダフィーという女を容疑者として逮捕するためにモーテルを訪れた。銃声が聞こえたので、ドアを蹴破って中に入ると、そこに女が二人いた。
●ひとりは腹部を撃たれて、瀕死状態。もうひとりは持っていた銃を床に取り落とした。
●撃たれた女はロイス・ダフィーだった。
●『わたしはまるでブルー・ローズよ』という言葉を言い残したあと、彼女は微笑を浮かべ、死んだ。
●遺体は彼らの目の前で消えてしまった。
●手から銃を落とし、部屋の隅で叫んでいた女もまたロイス・ダフィーだった。
●ロイスに双子の姉妹はいない。
●彼女は殺人を否認し、判決が出る前に首を吊って死亡。
●ダフィーを逮捕したのは、ゴードン・コールとフィリップ・ジェフリーズだった。

 「では、これを聞いて、君が今すべき質問はなんだ?」と、タミーの賢さを試すようにアルバートは尋ねる。
 「〈青いバラ〉は何を意味する?」とタミーがあらためて彼に問う。
 それは良い質問です───と、言うように頷くアルバート。
 「しかして、その答えは?」
 「自然界に〈青いバラ〉は存在しません。不自然なものだからです。死んだその女性も不自然。なんていうか、魔法みたいで……そう、〈Tulpa〉よ」 と、タミーは答える。

 聞き慣れない言葉。 Tulpa(トゥルパ)とはなにか

 それは主にチベット仏教の用語で、〈化身〉と説明されている。
 修業によって得た魔術的な力で、自分の思念を具現化して作りあげた存在のこと。
 それは必ずしも自分の身代わりとなる分身やクローンである必要はない。
 また自己が無意識に分裂する西洋的なドッペルゲンガーが超常現象として捉えられているのに対し、トゥルパは意識的に創造するものなの。つまり似て非なるものといえる。

 すでにタミーは二人のクーパーがひとりでに分裂したのではなく、誰かが意図的に創りだした存在=不自然な存在ではないか、と推測しているわけだ。

 「コーヒータイム!」というのんきな掛け声とともに、ゴードンが部屋にやって来た。
 「もうすぐダイアンも来るぞ」とアルバートに告げるゴードン。
 だが、ここで偶然、部屋の窓の外に掃除人が現れ、ワイパーで思いっきり窓ガラスをこすり拭きする。
 キュッキュッという音が補聴器で増幅され、おもわず顔をしかめるゴードン。
 このシーンのリンチの顔芸がすごい(笑)。

 この表情の作り方は、リンチの大好きなフランシス・ベーコンの作品を意識してるかも。
 関根勤さんにぜひモノマネをやってほしいです。

 ゴードンの災難が終わったところに、ダイアンもやってくる。
 相変わらずふてくされた表情で、腹の中はまったく読めないが、今日は緑色のブラウス。
 椅子に腰掛け、「代理捜査官のダイアンよ」と、皮肉っぽく一同に挨拶。

 ゴードンがさっそく質問する。
 「君がクーパーと会った最後の夜、ブリッグス少佐について何か話したか?」
 ダイアンは「最後の夜のことは話したくない」といったん回答を拒否。だが、ゴードンに説得されると、わりと素直に話題にしたことだけは認めた。
 「われわれはブリッグス少佐にまつわる事件についてずっと調査している。少佐は25年前に政府施設の火事で死んだはずだったが、数日前、遺体がバックホーンで見つかった。そして胃の中からこの指輪が発見されたんだ。指輪に刻まれていた文字には〈ダギーに愛をこめて。ジェイニー・Eより〉とある……」とアルバートが説明。

 表情が一変するダイアン。
 なんとジェイニー・Eと彼女は片親(母か父かは不明)が違う姉妹だったのだ。
 折り合いが悪く、もう何年も前から会話すらない状態らしいが(なんとなく合点はいくよね)、彼女の夫はダグラス・ジョーンズという名前で、ダギーと呼ばれていることを明かす。

 すぐにFBIのラスベガス支部に電話するゴードン。
 ここでも受話器を取ったラスベガス支部のFBIたちが、電話越しに聞こえるゴードンの大声で鼓膜が破れそうになるという小ネタを挟みつつ(笑)、ラスベガスに23人いるというダグラス・ジョーンズについて、さっそく捜査が開始された。
 ダイアンはここで退室。緑色の衣服を着ている時のダイアンは協力的で、赤い色のときは非協力的な態度なのは偶然なのか。
 それにしても、一気に話が展開したなあ……。

 昨晩、見た夢について、アルバートとタミーに話し始めるゴードン。
 彼の夢のなかには女優のモニカ・ベルッチが出てきたらしい。

ゴードン「わたしはパリで捜査をしていた。すると彼女から『話があるのでカフェで会おう』という電話が入った。(ここから夢のシーンが再現VTRのように、モノクロで流れ始める。もちろんパリでロケされている。モニカ・ベルッチ本人が出演)クーパーもそこにいた。だが、クーパーの顔はわたしには見えない。モニカはとても愛想がよく、男の友だちと女の友だちをひとりずつ連れてきていた。わたしたちは一緒にコーヒーを飲んだ。そして彼女は古くから伝わる警句を口にした」
モニカ・ベルッチ「わたしたちは夢のなかを生きているみたいなもの。まるで夢見人よ。夢を見て、それから夢の中で生きつづけるの(We are like the dreamer who dreams and then lives inside the dream)」
ゴードンが「理解した」と彼女に答えると、モニカはこう言葉を続けた───でも、その夢を見ているのは誰?(But, Who is the dreamer?)

彼はその言葉を聞くと、強烈な不安感に襲われる。
そしてモニカは、ゴードンの背後に視線を移した。ゴードンが後ろを振り返ると、若き日の彼がいた。
そこはフィラデルフィアの旧FBIオフィスだ。劇場版のシーンがインサートされる。夢について心配しているクーパーがゴードンに話しかけている。
「ゴードン、ちょうど今、2月16日の午前10時10分。つまり、ぼくがあなたに話した〈夢〉のなかに出てきた時間なんだ」

「その日はフィリップ・ジェフリーズが現れた……いや、現れなかった日だったのだ」とゴードンが解説を加える。

フィリップ・ジェフリーズ(デヴィッド・ボウイ)がフラフラとした足取りでオフィスに登場するシーン(=劇場版)のプレイバックが挿入される。

「ジェフリーズがはクーパーを指さし、わたしに聞いたんだ。『あなたはこれが誰だと思う?』と。いやあ、なんてことだ! すっかりこのことを忘れていたぞ。あらためて考えてみれば、実に興味深いな」と唸るゴードン。
 25年前、同じ場所に居合わせていたアルバートも「はい、わたしもいろいろ思い出してきました」と同調する。

 しかし、こんなトリッキーな方法でモニカ・ベルッチを出してくるとは予想を超えたよ(笑)。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 会議室にホークとアンディがいる。
 アンディはランチボックスくらいの大きさの、金属製の箱を4つ、机の上に並べている。
 そこへボビーもやってきて、ダブル・Rで買ってきたテイクアウトのサンドイッチとコーヒーを箱の横に並べていく。
 そしてフランクが世間話をしながらチャドを連れて会議室にやってくるが、入室するやいなや、4人はチャドを逮捕。
 チャドはしらばっくれたり、悪態をついたりするが、フランクたちはこの数ヶ月間、彼のことをひそかに見張っていたらしい。おそらくミリアムの通報をもみ消した件などが、きっかけになったに違いない。

●ジャック・ラビット・パレス〜ホワイトロッジ

 チャドを慌ただしく捕まえたあと、4人はリュックを背負って森へ向かう。
 役の上ではなく、実年齢50代前半のボビーはいいとして、還暦近いアンディ、60代後半のホーク、そして70代後半のトルーマン保安官にとって、ちょっとしんどそうな山歩き。

 ……だったのだが、ジャック・ラビット・パレスはブリッグス少佐が働いていた施設へ続く、きれいな道の途中にあって、思ったよりもあっけなく見つかる。まあ、いくら秘密だったとはいえ、政府が管理する重要施設が近くにあったわけで、そこへ繋がる道は少なくとも車で通えるようにきちんと整備されているのは当たり前だ。なんのために険しい道を歩いてきたのか、ちょっと疑問(笑)。

 ということで、なんとなく辿り着いたジャック・ラビット・パレスとは、地上4メートルくらいの高さの古い樹。途中で幹が折れている。落雷のせいかもしれない。

 ブリッグス少佐が残したメモに従って、ジャック・ラビット・パレス周辺の土くれをポケットにしまう。そして、指示通り、そこから253ヤード(231.343メートル)ほど東に進む。
 先ほどの道よりもグッと不穏な空気が高まり、リンチがディーン・ハーリーとともに制作した低いノイズが唸りを上げる。時折、電気(Electricity)の音も聞こえてくる。
 ブリッグス少佐が示した場所に辿り着くと、白煙が上がり、電気のショートする音や光がする。
 煙が薄くなっていくと、シカモアの木、乳白色のドロドロの液体が溜まっている穴、そして全裸の女が倒れている。
 アンディが駆け寄って、女の手を取る。Naidoだ。彼女は第3話でクーパーに話しかけていたときのように言葉にならない音を発しながら、ゆっくりのたうつ。

 この森のなかに全裸の女が倒れているという場面も、第11話に出てきたルース・ダヴェンポートの遺体同様、デュシャンの〈遺作〉を髣髴とさせる。
 ボビーやホークはそのあまりの異様な状況に言葉を発することもできない。しかし、トルーマンは冷静に時計を見て、みんなに声をかける。「2時53分だ」
 すると〈ゾーン〉に出現したあの渦巻きが彼らの頭上に出現する。渦巻きの中心にトリニティ実験のきのこ雲が一瞬見え、その光が渦の中に広がっていく。
 第11話でゴードンが見た渦巻きのなかは反対に真っ暗で、ウッドマンたちの姿が見えていたはずだ。

 ここでアンディの姿だけが消え、いつか見覚えのあるモノクロームの部屋へ彼はワープする。
 その場所は第1話に出てきた待合室のようなところ。
 クーパーが腰掛けていた同じ椅子にアンディは着席する。
 アンディの目の前を横切る人影が───もちろんそれは巨人。
 彼は例の逆回転風のセリフ回しで「わたしはFireman(消防士)」と自己紹介。無言で目をパチクリするアンディ。
 消防士が手で合図すると、アンディの手に魔法のランプのようなものが出現。中から白煙のようなものがたちのぼる。
 いつのまにか天井に丸い窓が開き、スクリーンがわりにさまざまなヴィジョンが映しだされる。たとえば、原爆実験で産み落とされたExperimentのやボブの姿(第8話のあれ)、ウッドマン、天使とローラ・パーマーとたなびく赤いカーテン、倒れている裸のNaido、重なりあうクーパーと黒クーパーの顔面、ルーシーがいつも取り次いでいる署内の電話機、6番の表札がついた電柱(たしかカールの管理するトレーラーパークにあったもの)……など、アンディはさまざまなイメージを見る。
 手に持っていたランプが消滅すると、アンディのお腹の肉(ずっと膨らみ方が不自然に感じていた)がベコベコベコと膨らんだり引っ込んだりする。そしてアンディの姿は部屋から消える。

 先ほどの穴のところではなく、ジャック・ラビット・パレスに戻っているアンディ以外の3人。
 ウッドマンたちがガソリンスタンドのまわりをうろつくヴィジョンのように、彼らの姿もゆっくりと増殖しながら、木のまわりをうろうろと歩いている。
 そこへ少し遅れて、Naidoをお姫様抱っこしたアンディも帰ってくる。
 「彼女を連れて山を下りましょう。彼女の存在はとても重要ですが、彼女の命を狙っているやつらがいます。健康面では問題が無いようなので、ひとまず安全のために留置所で保護しましょう。このことはぜひ内密に」
 これまでとは打って変わって、キリッとした顔つきのアンディ。いつも頼りなくおどおどとしていたのがウソのように、なんとも凛々しく見える。
 しかし保安官やホークは、自分たちの身に何が起きたのか、まったく記憶が無いらしい。
 ポケットに入れていた土くれが無ければ、皆この場所に戻ってこれなかったにちがいない。

 この一連のシーンを見てあらためて思ったこと。
 まず、旧シリーズに出てきた〈巨人〉と、今回出てくる〈消防士〉は同一人物ではないのかもしれない。
 つまり、冒頭でタミーが指摘したように、〈巨人〉と〈消防士〉はトゥルパの関係性で説明できるのではないだろうか。Experimentとボブの関係性もしかり。
 ブッダのような悟りを開いた存在は〈多数の姿に応化して、天を覆う無数の身体として現れた〉らしいし、Experimentは原爆という魔法的なパワーをつかって、たくさんのボブを産み落とした(あの砂漠に落ちてきた気味の悪い生物のようなかたちで)のかも。

●ツイン・ピークス保安官事務所

 アンディとルーシーがNaidoにバスローブを着せている。
 ルーシー曰く、このローブは「犬が消えて以来、ロッカーに入れてあった」もの。以前、署内で飼っていた犬の毛布がわりにしていた?(笑)
 「おめえなんか保安官の器じゃねえ!」 他の監獄に入れられているチャドがアンディに悪態をつく。
 「ロメエなんらオアンカンのウルワりゃねェェ」 さらに別の檻に、顔面血だらけ傷だらけ、呂律がまったく回ってない酔っぱらい(役名=Drunk)が収監されていた。男はチャドやアンディが口に出した台詞をすべて鸚鵡返しする。
 「おまえこそ保安官仲間の面汚しだ」 アンディがチャドに言い返す。すると酔っぱらいも「オメエこそホアンカンナラマのツラヨロシら」と復唱する。
 すっかり男らしくなったアンディを惚れなおしたような表情で見つめるルーシー。
 
 アンディとルーシーが留置所を立ち去ったあと、Naidoがまた猿や鳥の鳴き声のような、言葉にならない声を出し始める。それも真似しはじめる酔っぱらい。口からたっぷりと血の混じったヨダレをダラダラとこぼし続けている。
 よりによって、こんな日に逮捕されたチャドに少し同情してしまった(笑)。
 そういえば、新シリーズの第1話で蓄音機から流れていた不思議な音はNaidoの声だろうか?

●グレート・ノーザン・ホテル

 裏手の通用口みたいなところに腰掛けて、休憩している警備員がふたり。
 ひとりはジェームズ・ハーリーで、もうひとりは第2話でロードハウスに彼といっしょに現れた若者───名前はフレディ・サイクスという。

 フレディは右手だけに緑色のゴム手袋を嵌めていて、その右手で胡桃の実を軽くつまむと、指の力だけで木っ端微塵に砕いてしまう。
 このままだと一個も胡桃が食べられそうにないので、ジェームズがナットクラッカーをつかって割る。
 しかし、このフレディ。とんでもない怪力の持ち主のようだ。

 「もう一件、配達を受付したら、ロードハウスに行こうぜ」とジェームズが誘う。
 「レネーはいるのかな?」とフレディはジェームズをからかう。どうやら前回、彼の歌に感涙していたシェリーのママ友のレネーと良い仲になっているらしい。
 「実は今日、俺の誕生日なんだ」とジェームズが言う。
 資料によれば、1973年生まれという設定らしいので、今年で44歳。ちなみにローラとダナが1971年、オードリーが1970年でボビーが1969年生まれ、という設定らしい。学年は同じだったはずなので、この年齢差は謎だ。
 それにしても、ベンジャミンの下で警備員をしながら、歌手活動をしているなんてジェームズもずいぶん人生をこじらせてしまったようだ。
 
 で、このフレディの嵌めているゴムの手袋は絶対に取れないらしい。医者に行って、無理やり外そうとしたら出血したそうだ。
 彼はこのゴム手袋が身体の一部になった顛末をジェームズに語り始める。

●フレディはロンドンのイーストエンド出身の23歳。
●半年ほど前のこと。パブで飲んだ帰り、ひとりで歩いて帰っているとき、急に変な気分になった。
●何の役にも立たない人生を送っていることに嫌気が差したのだ。
●ムシャクシャした気分を晴らそうと、路地に積んであった箱の上になんとなく飛び乗った。すると、頭上に突然巨大な渦巻きが現れて吸い上げられた。
●虚空に浮かんでいたフレディは、渦の中で「消防士」と名乗る男と出会った。
●消防士は「近所のホームセンターに行くと、開封済みのパッケージに右手だけ入った、緑色の園芸用のゴム手袋を売っているはずだ。それを見つけて買え。それを嵌めれば、お前の右手は杭打ち機のようなパワーを得るだろう」
●フレディが目覚めるとそこは自分のベッドの上で、すでに朝が来ていた。
●彼は言われたとおり、ホームセンターへ向かい、消防士の言うとおり、右手だけのゴム手袋を見つけた。
●レジに持って行くと、店員が「開封済みの商品は売ることが出来ない。未開封のものを買ってくれ」と言って、売ってくれない。
●フレディはなんとかそれを買おうと店員を説得するが、店のルールで売ることができない、の一点張り。
●そこで彼は正規の代金をレジに叩きつけ、ゴム手袋を持って店を飛び出すが、店員がピューマのような速さで追いかけてきた。
●フレディは逃げながら右手にゴム手袋を嵌めたが、店員に追いつかれ、タックルで地面に倒された。
●揉み合うなかで、フレディは思わず店員の顔面を右手で殴った。すると何かが砕ける音がし、店員の首の骨が折れていた。
●そのとき彼は、消防士からのもうひとつのメッセージを思い出した。それは「アメリカのワシントン州にあるツイン・ピークスへ向かえ。そこでお前は運命を見出すだろう」というものだった。
●フレディが航空券を買いに行くと、不思議なことに、すでにツイン・ピークス行きのチケットは手配済みだった。

 「だからぼくは君の誕生日にここにいるんだよ、ジミー。ハッピー・バースデイ」とフレディは笑う。
 「すごい話だな……。でも、なぜ消防士は君を選んだんだろう?」とジェームズが疑問を口にする。
 するとフレディは言った。「それはぼくも思った。だから消防士に聞いたんだよ、どうしてぼくなんですか、と。そしたら消防士はこう答えた。なぜ、君じゃダメなんだ? って」

 話を中断し、ジェームズがボイラールームをチェックしに行く。
 彼が中に入ると、ベンジャミンとビヴァリーが出元を調べていたグラスハープのような共鳴音がする。以前、たしかベンジャミンは「警備員にチェックさせたが、何の異常もなかった」と言っていたはずだが、それを調べたのはジェームズではなかったということだろうか。怪訝そうな顔つきであたりを見回していると、音はどうやら古ぼけたドアの向こうから聞こえていることがわかる。近づいていくジェームズ……。

 フレディの話からすると、空中にできる渦はExperimentalやウッドマンたちだけでなく、消防士たちも使うことができるらしい。
 あと、フレディが身に着けている〈怪力〉は、前回発揮されたおそろしい腕力の持ち主、黒クーパーとの直接対決で発揮されるのだろうか?

●エルクズ・#9ポイント・バー

 どうやらエルク(ヘラジカ)大好き店主がやっている酒場らしい。店内のインテリアもとにかくヘラジカだらけ。ビリヤード台が何台か置かれ、それなりに賑わっているが、バン・バン・バーよりも客の年齢層は高め。また『ツイン・ピークス』にはなぜかほとんど登場しない黒人のエキストラもひとりだけいる。
 女が徒歩でこの店にやってくる。セイラ・パーマーだ。カウンターの端っこに座ると、バーテンにブラッディ・マリーを注文。煙草をさっそく吸い始める。バン・バン・バーはローラが入り浸っていたこともあるけれど、あそこは完全禁煙の店なので、セイラはきっと寄りつきもしないだろう。
 さらにカウンター奥に、長髪の中年男がひとりで、ビールをチェイサーにショットグラスでテキーラを飲んでいる。
 その男は何を思ったかセイラに近づいてきて、一緒に飲まないかと誘う。かなり特殊な性癖の持ち主か、相当に酔っ払っているか。それともその両方か。
 ひとりで飲みたいからほっといてちょうだい、とセイラが断ると、男は腹を立てる(まさか断られるとは思わなかったんだろう……)。
 「ここは自由の国(=フリー・カントリー)だぞ。カント(=クソアマ)もフリー(自由)にヤレるんだ」と、とんでもないことを言い出す。

 ちなみにこのおっさんが着ているTシャツのプリント〈Truck You〉は、罵倒の定番フレーズ〈F**k You〉を公衆の面前で言ったり書いたりできないかわりに使われている俗語。
 Tシャツのレプリカもどこぞの人がちゃっかり商品化して、このサイトで販売中。

 で、そのあとも男はセイラをレズ呼ばわりしたり、さんざん罵倒。ついにセイラの怒りも頂点に。

 男の方を向き直ると、顔を仮面のように取り外す。これは第2話でローラがクーパーに見せた行動と対になっている……!
 顔を外した時に見えるヴィジョンは、まず電流のようなもの(右上)、薬指だけ焼け焦げたように見える左手(左下)、最後に笑った口のアップ。

 そして顔を元のようにはめ直すと、セイラは男の首元に噛みつく! Experimentがニューヨークのバカップルにお見舞いした攻撃に酷似してる。
 酔っぱらいの首の肉がえぐれ取られ、大量の血を吹き出してぶっ倒れるが、セイラは返り血ひとつ浴びていない。
 そのあと、わざとらしくセイラが悲鳴を上げると、バーテンが死体に駆け寄る。
 「まさかあんたがやったのか?」とセイラに尋ねるが、もちろん彼女は全否定。
 バーテンも「この婆さんがやったとは思えない……」という気持ちと、「ひとりでに出来た傷とは思えないし……」という気持ちが綯い交ぜになったような、複雑な顔つきだ。
 

●バン・バン・バー

 本編のほとんどが老人だらけの新シリーズだが、ロードハウスのボックスシートには若者たちがよく登場する。ただそのあとでストーリーラインに本格的に関わる人物はほとんどいない。今回出てきたミーガンとソフィーのように、断片的に提示されたストーリーの断片を仮止めする〈まち針〉のような存在に過ぎない。
 会話の中に出てくる名前や場所も、これまで劇中にまったく出てきていない場合もある。今回ならたとえばこんなふうに。

ソフィー「あんたの着てるセーターいいわね。どこで万引きしてきたの?」
ミーガン「万引きなんてやってないわよ。ポーラから借りたのよ」

 ポーラって誰だよ。で、この先にポーラは出てくる気配もない。ひょっとして第4シーズン、第5シーズンなんて続いていけば、出てくるかもしれないけれど。
 まあ、ふつうのドラマ制作者がこんな伏線の張り方をしたら、お叱り間違いなしだが、リンチやフロストがやる分にはいっこうにかまわないとファンは思っている。

 で、実はこのミーガン。オードリーが探していたビリーと繋がりがあるようだ。

 ソフィー「ビリーを見た?」
 ミーガン「2、3日前に見たわ」
 ソフィー「最後にビリーを見たのはあんただよ」
 ミーガン「そうなのよ、すごく怖かった……。キッチンにわたしとママ、あと、おじさんもいたっけな……ちょっと思い出せないんだけど、とにかく窓の外にビリーが見えたのよ。180センチも高さのあるフェンスを乗り越えて裏庭に飛び込んできて、そのままキッチンまで入ってきちゃった。彼の鼻と口からは大量の血が出てた。シンクに頭を出すと、血が滝のように流れ落ちたわ。で、わたしたちを変な目つきで睨みつけたあと、また外に走っていった。キッチンには10秒もいなかったと思う」
 ソフィー「誰かにそのこと話したの?」
 ミーガン「ううん、なんて言っていいかわかんないし、ビリーとうちのママがどうやらいい仲なのよ。彼の名前を聞いただけでニヤついてたから」

 ビリーの最後の目撃者で、彼といい仲の母親がいる……ってことは、チャーリーとオードリーの会話に出てきたティナという女の娘がミーガンということなんだろう。
 あと、鼻と口から大量の血を吐いていた変なやつ……って言えば、チャドとNaidoと一緒に留置所へ入っていた、あの変な酔っぱらいのことなのか? それとも単なる偶然だろうか。
 ビリーっていう男は、リチャード・ホーンに黒いトラックを貸した農夫のことだと思っていたんだけど……よくわからなくなってきた。

 そうこうしてるうちにライヴタイムがはじまる。今夜のゲストはリッシー(Lissie)。

 リッシーはイリノイ出身の女性シンガーソングライター。2008年、本格的なデビュー前にレニー・クラヴィッツのツアーのオープニングアクトに抜擢されたことで注目されたそうだ。
 アメリカよりもイギリスで人気が高く、過去3枚のアルバムは全英チャートで12位、16位、16位とチャートに入ったが、アメリカではまったくヒットしなかった。
 そのわりにロード・ハウスの客は黒人司会者が名前を呼んだだけでものすごい盛り上がりだったけど(笑)。


 個人的には第8話に続く衝撃のエピソードだった。
 まず、ダイアンとジェイミーEが姉妹だったこと。画期的すぎるモニカ・ベルッチの使い方。ジャック・ラビット・パレスにも出現した渦。実体化して地上に降りてきた裸のNaido。アンディと消防士の邂逅および覚醒。フレディに消防士が託したタスク。そして、セイラの恐るべき能力……。
 ゴードンとモニカ・ベルッチのシーンで語られた〈夢〉についての言及や、タミーが触れた〈トゥルパ〉も、この新シリーズだけでなく、ツイン・ピークス・サーガ全体にとって、重要なファクターだろう。

 クーパーが〈Two Coopers〉に分裂しているように、ローラとセイラ親子がふたりとも仮面のように顔を外せることや、渦のなかに見えるヴィジョンも白黒二極になっている。ダイアンとジェイミーEがそれぞれクーパーの”パートナー”であること。これらは善と悪というわかりやすい二元論だけで説明できない。
 あと、結婚式の翌日に死んだログ・レディことマーガレットの夫は、ツイン・ピークスの消防士(消防団員)だった。
 マーガレット自身も7歳のとき、森に散歩に行って、家に帰ると一日失踪していた(旧シリーズの第24話)。
 彼女は自分が閃光に包まれたことだけを覚えていて、そのとき足にふたつの山(ツイン・ピークス)に見える痣ができた。マーガレットもジャック・ラビット・パレスの近くで、例の渦に飲み込まれたのかもしれない。
 また、セイラがいつからああいう能力を持つようになったのかは定かではないが、旧シリーズのときから彼女にはボブが見えていた。1954年にExperimentの吐き出した謎の生き物を飲み込んだ少女がセイラである可能性は高そうだ。彼女はこの能力を使って、他の人間も殺したことがあるのだろうか?

 それにしても、全裸のNaidoには驚いた。47歳とは思えない美しい裸身でした。