ダイアン───25年ぶりの復活劇の幕開けだ。

 なにはともあれめでたいのである。
 予算交渉の不調から「デヴィッド・リンチ降板騒動」なんて事件も起きて、一時はどうなることかと思っていた。
 しかも、新シリーズは全9エピソードと伝えられていたはずが、どさくさにまぎれて全18エピソードに倍増するって話になっていた。
 ……と、こんな感じで勝手にヤキモキしていたら、新作はあっさり完成していたのだ。

 最近流行りの<リ・イマジネーション>とか<スピンオフ>ではなく、正式な”第3シーズン”として制作されることになったから、番組名も『Twin Peaks』のままだ(日本ではWOWOWによって『ツイン・ピークス The Return』というダサい邦題がつけられてしまったが)。続編だからオリジナル版に出演していたキャストがほぼ再招集されている。
 リンチや共同製作者のマーク・フロストの気合いも只事ではなく、シリーズすべての台本を事前に書き上げ、撮影もすでに済ませてしまったという。

 このへんの手順は明らかに前作の轍を踏まぬように……という反省が生かされている。
 1990年から1991年にかけて放送されてた『ツイン・ピークス』のことを思いかえしてみよう。
 『序章』と呼ばれている二時間もののパイロット版がアメリカで放送されるやいなや大反響となり、華々しくシリーズはスタートしたけど、肝心のリンチは『ワイルド・アット・ハート』の撮影があって、ドアタマからほぼ不在に。第1話なんて『ブルー・ベルベット』や『ワイルド・アット・ハート』の編集担当ながら、監督経験はゼロのデュウェイン・ダンハムに演出をやらせている始末だ。
 脚本だって、当時まだ新人のハーレイ・ペイトン、ロバート・エンゲルス……といった、その後も『ツイン・ピークス』以上の仕事は残していない面々に任せていた。
 結局、シーズン1に関して言えば、リンチが監督してるのはたったの2本だけ(Ep2と8)。
 映画並みの予算でロケ(カナダ国境に近いロケ地のスノコルミーはその後、一大観光地となった)を敢行した『序章』と違って、レギュラー版は予算やスケジュールの関係から、LA近辺で撮影された。

 それでも、世界中に『ツイン・ピークス』旋風を巻き起こし、その後のテレビドラマや映画界に与えた影響の大きさといったら、SFにおける『スターウオーズ』並と言ってもいいと思う。
 これはリンチとフロストが生み出した世界観、奇妙で魅力的なキャラクターたち、アンジェロ・バダラメンティのミスティークなサウンドトラックなどが、いかに素晴らしかったか……という証拠でもある。
 ただ、ぼくがもっとも心配したのは、それこそ『スターウォーズ』でジョージ・ルーカスがやらかしたようなことを、今回の続編でリンチがやってしまわないか……ってことだった。

 事実、オリジナルシーズンも途中からだんだん歯車が狂ってしまったあと、いかに百戦錬磨のリンチたちとて、対処療法はほとんど功を奏さなかった(相方のマーク・フロストもまた自身が脚本・監督をつとめる『ストーリーヴィル』という映画のために中抜けしていた)。
 それならば……と、シーズン終了後に作った映画(『ローラ・パーマー最期の7日間』)も、デヴィッド・ボウイの怪演が印象に残ったくらいで、ぼく自身「見なきゃよかった」と打ちひしがれて映画館から帰宅した記憶が強い。もちろん今となっては冷静になって評価しているつもりだし、今回の新作を見るにあたっては、かならず踏まえなきゃいけない作品になっているんだけど……まあ、映画として”成功作”と呼べる水準のものではない。

 そんなわけで、今回は多少ゴネてでも、あらゆる障害を撮影前に取り除いてしまいたかったのだろう。
 最初に書いたとおり、撮影は昨年中に終了しているようだ。撮りためた140時間にも及ぶ素材を、18時間という長大な一本の映像作品に束ね、それを18個のパートに切り分けて放送する……というイメージなのだそうだ。当初9本のエピソードで構成されるはずだったのが、倍の18本作られることになったのも、同じように予算をかけるなら、作品本数が増えたほうが誰にとってもお得なわけで、降板騒動の時にそんな交渉がなされたのかもしれない。
 作ってる途中で視聴率を気にしたり、SNSでくちさがない人々にああだこうだ文句を言われないというメリットもあるが、反響が悪くても撮り直しが効かないという意味では、前回以上のギャンブルと言えるかも。

 ちなみに25年前は、アメリカ三大ネットワークのひとつであるABCが放送した。今回はケーブル局のShowtimeだ。日本でも放送されている『デクスター』『Lの世界』『シェイムレス』といったドラマや、格闘技好きのぼくは総合格闘技団体「Strikeforce」の試合を放送していた放送局という印象が強い。
 社長のデヴィッド・ネヴィンス(またも新たなデヴィッド登場!)は新作の全エピソードをすでに見ていて、「デヴィッド・リンチ版の純度100%のヘロイン」というコメントを出している。リンチ印のオーガニックコーヒーは知っているけど、リンチ印のヘロインは手を出すのがちょっと怖い。

 リンチは2006年の『インランド・エンパイア』以降、11年も長編映画を作っていない。
 11年ぶりの……と聞くと、こないだ出たコーネリアスの新作を思い出すし、くだんのアルバム『Mellow Waves』と『ツイン・ピークス』のことも繋げて語りたい気持ちもいっぱいなのだが……それはさておき。
 リンチもそのあいだ隠遁していたわけではなく、デュラン・デュランのライブフィルム(『アンステージド』)を撮ったり、音楽アルバムを出したり、娘とともに運営しているデヴィッド・リンチ財団を率いて、瞑想の普及活動をしたり、音楽とアートを融合したフェスティバル<Festival of Disruption>を開催したりと精力的に動いてきた。
 映画監督を引退するなんて噂も出てるけれど(否定したという話も)、そんな思い切った発言が飛び出すほど、今回の『ツイン・ピークス』が充実した撮影になったと信じたい。
 
 さて、この文章を書いている現時点で、ぼくは第1話から第4話まで視聴済みだ。
 新作の第1話がWOWOWで放送されたのは、ぼくの誕生日である7月1日だった。当日は両親と会食するつもりだったけれど、オンタイムで見たいから───という理由で、キャンセルした。翌7月2日に第1話から第4話までが先行放送されたのをイッキ見した。

 だが、次の第5話が見られるのは(オンデマンドで先行公開されない無いかぎり)最速で8月19日。まだ一ヶ月以上も先の話である。
 続きを待ちきれない気持ちも当然あるし、そのあいだに何度も4話までを見返すことになるはずだ。
 見てる間に頭に思い浮かんだことを執筆する時間はたっぷりあるだろう。来月の第5話の放送までに第1話から順に書いていき、その頃までにはきっと4話分は追いつくと思う。それ以降は各エピソードの放送後、翌週までに1話ずつ書いていくことにしよう。
 要するに以前、誠光社の堀部篤史くんとやっていた『ブラタモリ交換日記』の時と同じパターンだ。違うのは執筆者がぼくひとりだってこと。
 それと、ぼくはリンチ好きだけど、リンチマニアではない。もちろん関係者でも友人でもない。裏話や知られざるエピソードなんて書けるわけがない。だからいつものように、本筋を追いながら頭に浮かんだ余談に次ぐ余談を書き留めていくことになるのはまちがいない。
 オンタイムで見るだけでなく、ハードディスクに劣化のない画質で録画できるようになった。25年前には夢でしかなかったオンデマンドサーヴィスもある。視聴形態が多様化している以上、誰の/どのタイミングに配慮していいかもわからないから、ネタバレは気にしないで書くつもりだ。

 ということで、これから12月までお付き合いよろしく。