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 ハウス・ミュージックの父、フランキー・ナックルズが亡くなりました。

 ぼくがハウス・ミュージックのレコードを意識的に買うようになったのは1988年───ハウスという新しいダンス・ミュージックが、本格的に世界の音楽界へ影響力を発揮しはじめた頃のことです。そして1988年はちょうどぼくが大学入学を機に上京した年でもあります。六本木WAVE、CISCO、Frisco(CISCO系列のCDショップで渋谷の東急ハンズの正面にあった)あたりに出かけると、まず目に飛び込んでくるのがハウス・ミュージックの12インチでした。田舎ではまず目にしなかった種類のレコードです。
 SL-1200 Mark-IIを一台だけ持っていたけれど、もちろんまだDJは始めていませんでした。クラブへ遊びに行ったことさえなかった。その手のレコードはグラフィック・デザインの現場に普及し始めた、コンピュータを使ったデザイン(DTP!)が多く、目を引かれたのです。だからシングルをレコードで買う場合も、ちゃんとジャケットの付いたメジャーレーベルからリリースされている物を中心に買っていました。もちろんDJを始めてからは、白いレーベル面にスタンプが押してあるだけ───のような、いわゆる白盤もたくさん買うようになったのですが。

 いや、それよりもまずアルバムをCDを買うことが多かったな。かたや二、三曲しか入ってないのに1,000円。CDなら10曲以上入って2,000円。お金のない大学生にしてみれば、当然の選択でした。
 フランキー・ナックルズが1991年にリリースしたアルバム『Beyond The Mix』、1988年リリースのFingers Inc.『Another Side』、あるいはLil louis & the world『from the mind of lil louis』(1989)や『Journey with the Lonely』(1992)などは、新しい音楽スタイルの刺激と高い精神性やメッセージ性が融合した名盤です。
 それこそロックファンにとって『リヴォルバー』とか『ベガーズ・バンケット』とか『ペット・サウンズ』並の作品だと思っています。
 当時のポップ・チャートを席巻していたディー・ライトやソウル II ソウル、また富家哲さんやゴウ・ホトダさんなど、日本人もハウス・シーンには大いに関与していたから、そういう意味でも他のジャンルの音楽とは違ったシンパシーを感じていたように思います。

 長くDJ / サウンド・プロデューサーとして活躍してきたフランキーの手がけたサウンド・プロダクトはあまりにも膨大で、すべてを網羅することなど、とても不可能です。また、ベテランDJにしてはめずらしく、最近になってもリリースは活発でした。彼が重い病気を患っていたことを知らなかったこともあり、今回の訃報にはとても驚きました。

 盟友デヴィッド・モラレスや、ディミトリ・フロム・パリスがすばらしいトリビュートミックスをすでに発表していますが、ぼくもフランキーの作品には大好きなものが多いですし、ぼくがDJを始めた頃からTMVGとして活動していた1994年〜2002年あたりは、フランキーや彼の所属するDef Mix Productionsが、最も旺盛に活動していた時期と重なります。
 ロマンティックなピアノサウンド、ヘヴィなキックドラム、独特の疾走感をもったハイハットのリズム……フランキーの創りだしたハウス・ミュージックは、今もまったく古びることなく、まさに”Classic”として輝きつづけています。

 そんな彼への私的な追悼として、僭越ながらぼくもミックスを作りました。
 データで所有していなかった古い音源は今回あらためてアナログからデジタルに起こしたのですが、そんな作業をしながら「ああ、この曲はあのイヴェントでかけたなあ」とか「このレコードはあの店で買ったなあ」とか、ほんとうに色々なことを思い出しました。
 もちろんディミトリやモラレスと違って、フランキーと個人的な繋がりなどありませんが(西麻布イエローのトイレで連れションしたことはあります)、そんな思い出もこのミックスにはたくさん詰まっています。

 なお、アートワークは別海町在住のDJ/デザイナーの山本圭一さんに作ってもらいました。彼自身も熱烈なハウス・ミュージック・ラヴァーですし、この曇った写真の処理は「涙で視界が霞んでる感じ」を表現した、彼からフランキーへの想いが詰まったすばらしいデザインになっています。

 フランキーやハウス・ミュージックのことをよく知らない方にも、ぜひ楽しんでもらえればと思います。

Akira Mizumoto / So Many Tears – Tribute Mix To Frankie Knuckles by Akiramizumoto on Mixcloud