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このところ告知ばかりの更新だったので、たまには今読んでいる本のことなども。

来週、来月、再来月と気の抜けないトークショーや講演が続くため、資料の下読みにばかり時間を取られてしまい、純粋な読書がまったく出来ていなかったのですが、この、先日出たばかりの古川緑波『ロッパ食談 完全版』だけは、合間を縫ってハフハフと読み進めています。
あすこのあれは美味かった、これはだめだ、と、食に関する本は好き嫌いを簡明に書いてある本の方がたのしい。

ドイツ料理のケテルは、戦後いちばん早く、並木通りに開店して、今でも中々盛(なかなかさかん)ですが、まあここも、一皿満腹を狙っているようで、野菜を、うんと添えて来ます。だから、僕も食いながら色々苦心(少し宛残すとか、野菜を除けるとか)しないと、二皿は食えません。
しかし、ここの野菜の料理法は、優れていて心なしの「野菜添」ではありません。よく工夫して味附けされています。とりわけ、ケテルは、キャベツの煮方が上手です。
だから、コーンビーフ・キャベッジなんかが、とても美味いです。ポテトのリヨネイズも、ここのが良心的です。
ケテルを、あんまり誉めてばかりないで少々貶すと、スープは感心しない。ポタージュ、コンソメ共に、何だか手を抜いているような感じです。もっとも、スープってものは、これに余り力を入れると、後から出る料理が負けてしまうから、故意(わざ)と、いい加減にするんだということを聞いたことがあります。
(中略)
ケテルでは、デザートも中々よろしい。殊に、僕はプッティング(とりわけ、ブレッドプッディング)が好きなので、ここの、ディプロマートを愛しています。
但し、ケテルさん、コーヒーは決して美味くないな。それも菓子を引き立てるために、「故意と」ですかな?

単なる蘊蓄ではなく、舌の上に蓄積した厖大な記憶に基づいたロッパさんのあまカラな批評は、食に対する無邪気な愛情も、料理人に対する敬愛の情にも溢れているから、褒められても貶されても、店側の人たちは同じようにうれしかったろうし、気も引き締まったと思う。
それにしてもロッパさんの文体の愉快なこと! ぼくもこんなふうにリズミカルで、読み手の胃袋を刺激するような”うまい"文章を書いてみたい。努力はしてるつもりなんだけどね。まだまだ修練が足りませぬ。